台湾オードリー・タン「ハッカーとしての素顔」

オープンソースとシビックテックへの思い

2020年のコロナ禍で、〈g0v〉とマスクマップを開発し、危機に迅速に対応した台湾のデジタル担当大臣、オードリータン氏(写真:AP/アフロ )
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台湾にさまざまなイノベーションをもたらし続ける、台湾デジタル担当政務委員大臣のオードリー・タンさん。彼女のこれまでの仕事と思考について、オードリーさんへの丹念なインタビュー取材を元にいきいきと描き出した『オードリー・タンの思考 IQよりも大切なこと』より抜粋してご紹介します。
今回は、彼女の過去の特筆すべき活動のひとつ、シビックハッカー・コミュニティ〈g0v〉への参加と〈萌典〉の経緯についてです。

オードリーがデジタル担当大臣として入閣した2016年からさかのぼること4年前に始まり、彼女が今でも参加し続ける、シビックハッカー・コミュニティ〔g0v(零時政府)〕(ガヴ・ゼロと読む。以下〈g0v〉と記載)。

シビックハッカーとは社会問題の解決に取り組む民間のエンジニアのことで、台湾における彼らの数は、世界でも3本の指に入ると言われている。シビックハッカー内にもさまざまなコミュニティが存在しているが、その中でもソフトウェアのソースコードを開放する〈オープンソース〉に関心のある者が集うコミュニティから〈g0v〉は生まれた。

数字のゼロを使った〈g0v〉という名称は、政府の略称が、government に由来した〈gov〉であるのに対し、彼らは「政治をゼロから再考する」というスタンスを表したもの。

「『なぜ誰もやらないのだ?』と聞くのをやめて、まずは自分がその『やらない人』の1人であることを認めよう。万能な人は存在しない」。これが彼らのモットーである。私自身も耳が痛くなる言葉だ。

従来の社会運動にテクノロジーコミュニティを結び付けることで、環境や労働など、社会問題をテーマにしたプロジェクトに取り組んでいる。2年に1度、国際サミットを開催したり(2018年には30カ国近くが参加)、総額1000万元以上のシビックテック・イノベーション助成金を発行するなど、その規模は決して小さくない。

オードリーを語るとき、この〈g0v〉は重要なキーワードだと言えよう。2014年の〈ひまわり学生運動〉でもオードリーは〈g0v〉のメンバーとして貢献しているし、入閣後は自らプロジェクトを実行することはなくなったものの、今でも〈g0v〉のSlack(チャットルーム)に入り、やりとりは続いており、時には問題解決をサポートすることもある。2020年のコロナ禍でマスクマップを開発したのも、彼女が〈g0v〉と共に行ったことだ。

ここでは〈g0v〉のあらましと、オードリー自身がそこで手がけたオンライン言語辞典の〈萌典 moedict〉を紹介する。

きっかけは、台湾史上最悪の広告

〈g0v〉が始まるきっかけとなったのが、2012年2月に行政院が打ち出した〈経済力推進プラン(原名:経済動能推升方案)〉の動画広告だ。ちまたでは「台湾史上最悪の広告」と呼ばれている。

台湾史上最悪の広告といわれる広告の中身とは(実際の〈経済力推進プラン〉動画広告より)

この動画広告で流れるナレーションの拙訳は以下の通り。

「〈経済力推進プラン〉とは、何でしょうか? 私たちはわずかな言葉で簡単に説明して、皆様にご理解いただきたいと強く思っています。ですが、わずかな言葉数では、こんなにたくさんの政策を説明することはできません。

なぜなら、経済発展のためには完璧な計画が必要であり、それでこそ経済は動き出せるのです。

だからこのプランは当然複雑になります。 重要なのは『たくさんのことが今、加速して進行中』だということです。これを実行すれば、間違いない!」

開いた口が塞がらなくなるような、まったく中身のない内容だが、これは当時の政府が実際に流した広告なのだ。

これに対して、「政府は国民のためにあるものなのに、政策を説明せずに進めるのはおかしい」と立ち上がったのが、高嘉良(ガオ・チャーリャン)、吳泰輝(ウー・タイフォイ)、陳學毅(チェン・シュエイー)、郭嘉渝(グゥオ・チャーユー)ら4人のシビックハッカーだ。彼らは、台湾Yahoo! 奇摩が主催したハッカソン〈Yahoo! Open Hack Day 2012〉に参加し、政府の予算データをオープンデータ化してみせた。

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