台湾オードリー・タン「ハッカーとしての素顔」 オープンソースとシビックテックへの思い

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〈萌典〉の使い方はとても簡単だ。前頁の写真を参考にしてほしい。たとえば、「國語」を調べるとこのように結果が表示され、各説明文内の単語をマウスオーバーすると、さらにそれぞれの言葉の意味が表示される。中国語は、日本語と同じ漢字であっても、筆順や止め・跳ね・払いなどの筆画が違うものもあるが〈萌典〉ではそれぞれの漢字の筆順まで見ることができて、音声読み上げ機能もある。

オードリーは、「一つひとつの言葉にパーマリンク(それぞれに独立した重複しないURL)が必要で、それをシェアしやすいようにすることが大切」だと話す。実際、「國語」について記載されているページのURLをFacebookでシェアしようとすると、写真のようなOGP(ページ情報)が表示される作りになっている。

シェアしやすいように考案された〈萌典〉のパーマリンク

また、〈萌典〉は〈重編國語辞典改定本〉を基盤としながらも、後から複数の辞典の情報が追加されることでその網羅性をさらに高めている。そのため〈萌典〉内で同一の内容に関して異なる表記が存在することも起こりうるが、その場合、アクセスしたユーザーらにどちらが正解かの判断を求め、最適解を探る仕組みが採用されている。実際、とある誤植に関しては、18日間で5602人もの参加者により補正されたことがあるという。

「言語の保存・継承」にデジタルで貢献

台湾には、政府に認定されているだけでも16の原住民族がいて、それぞれ文化も言語も異なる。原住民族とは、17世紀頃に中国大陸から漢民族が入ってくる以前より、もともとこの地で暮らしていた先住民族のことだ。台湾の中国語で「先住民」とは「すでに存在しなくなった」という意味合いがあるため、政府公認で「原住民族」という表記が使用されている。その中でも最大の人口を持つアミ族(約21万人)についても、翌2014年のハッカソンで、専門の〈アミ語萌典〉が開発されている。なんと、わずか53時間で8万語以上のアミ語が登録された。

2014年のハッカソンで開発された、台湾最大の原住民族アミ族専門の〈アミ語萌典〉

多民族国家である台湾ではほかにも、古くから使われていた台湾語や客家語、台湾華語など、言語文化の保存と継承が重視されるようになってきている。また、年々増加する海外からの移民の言語にも向き合おうとしている最中だ。さらに逆に台湾から海外に移住した台湾人の中に、「自分たちのルーツである台湾華語を子どもたちに継承していきたい」というニーズもある。このように、オードリーら〈g0v〉のメンバーは、台湾にとって重要なテーマである「言語の保存・継承」にシビックテックやオープンソースといった概念で大きく貢献した。

中国語の学習者であり、人に物事を伝える仕事に携わる私自身も、日々の執筆の際にほぼ毎日、この辞書に当たっている。台湾で使われている中国語(台湾華語)は、同じ北京語でも中国で使われているものと単語や意味合いが大きく異なる。だが、日本で一般的に流通している北京語の辞書がカバーしているのは中国版であるため、ほぼ使うことができない。

だから、安心して参照できる情報の拠り所があるというのは、本当にありがたいことこの上ない。こうして言語が継承され、学習され、台湾の文化の礎となることに対して、〈萌典〉の存在は重要な役割を果たしていると言えよう。

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