台湾オードリー・タン「ハッカーとしての素顔」

オープンソースとシビックテックへの思い

この〈g0v〉において、オードリー自身の手でメンテナンスされた唯一のプロジェクトが、2013年1月のハッカソンで提案・開発され、今でも台湾で広く使われているオンライン言語辞典〈萌典 moedict〉(以下、萌典と記載)だ。

2013年より、今でも台湾で使われているオンライン言語辞典〈萌典 moedict〉(出典:ウェブ〈萌典〉)
上がAndroid版、下がiphone版の〈萌典〉アプリ。どちらもユーザーからの評価は最高5点中4.6と非常に高い〈2020年10月時点〉

この〈萌典〉には、約16万もの台湾華語(北京語が台湾にローカライズされて台湾独特の表現が増えたもの。とくにその差を強調する必要のある場合を除き、本書では「中国語」と記載している)、約2万の台湾語(ホーロー語)、1万4000の客家語が収録されており、英語、フランス語、ドイツ語の対訳が付けられている(日本語訳のボランティアに名乗りを上げたいところ。有志求む)。

台湾で最も権威ある国語辞典のウェブ版

もともと台湾の教育部にも、1996年に公開されたウェブ版の〈重編國語辞典改定本〉というものがあった。台湾華語の定本として貴重な辞書であり、公開以来の17年間で訪問回数は約2億回と、多くのニーズがあることをうかがわせる。ただし、このウェブ版は公開後ほぼ更新されていない。そのため、スマートフォンやタブレットでは閲覧できず、外部によるリンクの設置が許可されているのはトップページのみで、下層の個別ページへリンクを設置する際には許可が必要など、使い勝手に大きな課題があった。

教育部によるウェブ版〈重編國語辞典改定本〉(出典:オードリー・タン作成〈萌典與零時政府〉)

2013年に開かれたハッカソンに、アメリカからオンラインで参加した教授の葉平(イエ・ピン)は、この〈重編國語辞典改定本〉をオープンデータ化することを呼びかけ、それに応えたオードリーを含む30名ほどのハッカーらが、夜通しの作業でこの〈萌典〉を開発した。同年3月23日のハッカソンから始まり、ローンチ(公開)したのはその翌日だったというからものすごいスピードだ。その後、数カ月の審議を経て教育部はこの〈萌典〉を認可し、現在では毎月数百万もの訪問がある、台湾になくてはならないツールとして定着した。

〈萌典〉のページの1例

ちなみに、若い世代の日本人なら誰しも〈萌典〉の「萌」という文字が気になるところだと思うが、これは教育部(Ministry of Education)を表す略称〈MOE〉の発音が、ちょうど日本の若者を中心に流行した、可愛いという意味の「萌え」の発音と同じであったこともあり、この名前を付けたという。こんなところに思いがけず日本とのつながりがあったことに、嬉しくなってしまうのは私だけではないはずだ。

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