日本人に知ってほしいサステナビリティの本質 小林いずみさんが指摘する日本の議論のズレ

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小林:個人レベルで、地球の問題を危惧している人たちは多くいると思いますが、それを企業行動に落としていくとなれば、やはり、中・長期の企業価値と直近の収益とのバランス問題にぶつかります。コスト増になるとしても、地球のことはわれわれの責任だから、犠牲を払ってでもやるという企業は、オーナーが強いリーダーシップを持った企業でなければ難しいと思います。合議体で運営される株式会社は、投資家からの期待を背負わされているので、収益を減らしてまで、地球のためという理由で大きな行動を起こすことは難しいでしょう。

そのため、企業に対しては、投資家が長期的視点を持って、この問題に取り組むように圧力をかけ、行動を変えていくことが重要になります。その点では、金融セクターは、すべての産業を網羅し、何らかの影響力を持っているので、サステナビリティに果たせる役割は大きいはずです。

小林いずみ(こばやし・いずみ) ANAホールディングス社外取締役、三井物産社外取締役、みずほフィナンシャルグループ社外取締役、オムロン社外取締役。大学卒業後化学メーカーに勤務。1985年にメリルリンチグループに転職し主にデリバティブ市場業務に従事。2001年、メリルリンチ日本証券代表取締役社長に就任。2008年11月から2013年6月まで、世界銀行グループ、多数国間投資機関(MIGA)の長官。2013年以降国内外法人の社外取締役、アドバイザー等を主に活動。2002年から2008年まで大阪証券取引所の社外取締役、2007〜2009年、2015〜2019年4月公益財団法人経済同友会副代表幹事(撮影:間部 百合)

「採算ライン」に到達した問題が取り上げられる

須賀:うがった見方をするなら、「気候変動」の問題は、ここ数年の間に、ようやく投資家や企業にとっても、収益性を見込める採算ラインに到達したように見ています。今後、これらの分野に対してはさらに投資が進み、技術開発にも追い風が吹いていくと思いますが、例えば、「生物多様性」などの問題は、まだ採算ラインに乗る見通しが立っていないからか、グローバルでアジェンダ化されることが遅れています。このように、収益性の観点から、グローバルでの最重要課題として取り上げられる問題もあれば、同時に忘れ去られてしまう問題もあるという構図は、フェアではないように感じます。

小林:おっしゃるとおり、グローバルでの最重要課題として取り上げられている問題は、問題に関わる産業の規模に依存しているとも言えます。「カーボンニュートラル」や「脱炭素」の問題がここまで大きくなったのも、現状では、世界の産業や文明の多くが石油などの化石燃料をベースに成り立っており、それらの燃料を大きく代替することは、新たな巨大市場を創出することであり、社会に大きなインパクトをもたらすからだとも言えますし、だからこそ、解決に向けた動きが一気に進んでいるとも感じます。

一方で、食料などの問題は、それぞれの国や地域ごとのローカリティが高く、石油化学のように、グローバルで大きな影響力を持つ巨大コングロマリットもあまり存在しないので、重要な問題として認知はされているものの、グローバルにおける課題の中心に置かれることはありません。残念ですが、産業としての影響力がなければ、大きな流れにはならないということになってしまっています。

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