西山記者はジャーナリストの鑑と言えるか

山折哲雄×滝鼻卓雄(その2)

西山記者が記事を書いていない

滝鼻:今、山折さんから西山事件の話題が出ましたが、実は私は、西山事件を発生当初から最高裁判決まですべてフォローしています。

最近、亡くなった堤清二さんが「最近の新聞記者は西山みたいに骨っぽくない」と嘆いていましたが、私は堤さんに「それは間違いですよ」と反論しました。なぜかというと、西山記者は、日米沖縄返還交渉の密約の原本文を入手しながら、毎日新聞にきちんと記事を書いていないからです。

一時期、特定秘密保護法案について、いろんなコメンテーターがテレビや新聞に出ていましたが、私は読売新聞のデスクに「西山さんはコメンテーターとして使ったらダメだ」と助言しました。西山さんは、テーマとしてはぴったりかもしれませんが、あれだけの大きなニュースを入手しながら、正面から書かずに逃げた人です。普通だったら毎日新聞一面トップの大ニュースなのに、囲み記事でちょろっと出ただけです。

それなのに、なぜ密約の話が表に出たのかは、はっきりわかりません。それについては、毎日新聞も西山さんも担当弁護士も秘密にしています。どういうルートかははっきりわかりませんが、当時、社会党の代議士だった横路孝弘氏に本文の写しが渡って、彼が国会で暴露しました。ただ、暴露の仕方が下手で、ある外務省の審議官のところで決済印が止まっていることがわかる写しを出してしまった。その審議官の秘書があの女性でした。

山折哲雄(やまおり・てつお)
こころを育む総合フォーラム座長 1931年、サンフランシスコ生まれ。岩 手県花巻市で育つ。宗教学専攻。東北大学文学部印度哲学科卒業。駒沢大学助教授、東北大学助教授、国立歴史民俗博物館教授、国際日本文化研究センター教 授、同所長などを歴任。『こころの作法』『いま、こころを育むとは』など著書多数

西山記者の行為は、二重の意味でいけないことです。ひとつ目に、記事にしなかったこと。もうひとつは、自分で入手したニュースをほかの目的に利用したこと。つまり、自分で書かずに、国会で利用したということです。

この私の意見は、当時、西山弁護団の団長をやっていた伊達秋雄さんや、同じく弁護人を務めた、元最高裁判事の大野正男さんには何度も伝えましたが、彼らは「われわれは知る権利というスローガンで戦うんだ。だから滝鼻くん、あまりそれを言い立てないでくれ」と言っていました。

山折:意外ですなあ。

滝鼻:彼は女性事務官から入手した資料を基にして、ストレートな記事を書いていないのです。書いてれば立派なものです。今、何を言っても説得力がある。しかし、記事を書いていない以上、西山記者が特定秘密保護法の問題で脚光を浴びるのは、大間違いです。それなのに、彼が世間で注目されるようになったのは、山崎豊子さんが彼をモデルとして書いた『運命の人』の影響が大きい。あの本は、西山記者を善人にしてしまった。山崎さんが書けば、みな本当だと思ってしまいますよ。小説はフィクションですから、ウソを書いてもいいですが、それによって西山記者が英雄になってしまった。そこから間違いが始まり、堤清二さんもだまされた。

山折:私もだまされました(笑)。

滝鼻:当時は、毎日新聞の中では、西山記者逮捕にショックを受け、「このままではすまない、知る権利で戦うべきだ」という一種の“勢い”が生まれ、それが“知る権利裁判”になったようです。しかし、「毎日新聞で報道していないのに、戦いすぎるとまずい」という慎重派もいました。

あんまりこの話をすると、西山さんはまだご健在ですし、今やっと山崎さんに救われてコメンテーターとして活躍しているのに、水をかけるようなものですが。

山折:いやいや、今日はものすごくいい話を聞かせてもらいました。

(撮影:梅谷秀司)

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