3.11原発事故で現場対応した人の薄氷踏む判断 細野豪志氏×磯部晃一氏対談(前編)
細野:行ってくれと言うのはつらいですよね。
磯部:誰かがやらなければいけないんです。自衛隊は後ろを振りむいても、そこには誰もいないですので。
細野:16日は自衛隊が放水することになっていたので、私は東電に現場の作業を止めてもらったんです。昼頃から準備をするということだったので、半日以上。
ところが夕方の5時頃、映像で見守っていたら、偵察機は見えたんだけど、放水するはずのヘリが見えない。すぐ北沢防衛大臣から電話がきて、「線量が高いから帰した」と言われて、現場が凍りついたんです。
東電本店だけではなくて、映像でずっといちえふ(1F)が見えているので、重要免震棟の皆さんも声がない状態で。政府の人間は私1人だったので、周りの目は厳しかったです。肩を落としている訳にいかない。見えないところに行って、すぐに北沢大臣に電話して相当強く申し上げたのを覚えています。
そして17日に放水が実行され、自衛隊を含めた政府も東電も全軍を挙げてやるという意識になっていった。それは非常に大きかったと思います。ただ依然、アメリカ側は評価が分かれていた。非常によくやったという評価も聞こえてきたけれども、一方で、「入った水はわずかだ」という声も届いていました。
磯部:これは、見る角度による感じもありまして、軍人と話していると、非常によかったという意見が多かったように思いますが、外交ルートから来ると、まだ十分ではないという評価もあり、立場によって違っていましたね。
3つの組織の調整に難航する
細野:そこで、18日から今度は陸から放水だということになったわけですよね。ここが実は、私が東電本店で本当に苦しんだ場面の1つで。自衛隊の制服組、警察、そして消防のリエゾン(連絡員)が本店に来ていましたが、どういう順番で入れるかという現場の調整がうまくいかないんです。
自衛隊は放水を空中からしたものだから、陸上からの放水は先陣争いみたいになってしまった。結論としては警察が先に行くことになったけれども、その後自衛隊、そして気がついたときには、行かないと言っていた東京消防庁が間もなく福島に到着するという大混乱で。この3つの組織の、一言で言うと、連携の悪さ、やや厳しい言い方をすると、もともとの組織としての相性の悪さ。
磯部:相性が悪いということはないと思うんですけどね。一般の災害派遣でも現場では警察、消防、自衛隊、みんな一緒になって現場で人命救助をしますが、誰が先にやるかとなるといろいろな利害が出てくるんですかね。
細野:組織としての性格がまったく違うんです。自衛隊は国家組織じゃないですか。警察は都道府県警、警察は警察庁がいくら言っても、やはり都道府県の組織。消防はさらに小さいでしょう。
磯部:市町村単位ですね。
細野:東京消防庁は少し大きな組織ですが、そのほかは市町村単位。例えば担当の総務大臣だって指揮権はないわけです。指揮権があるのは唯一自衛隊だけ。それで18日はその調整でほぼ1日かかってしまった状況でした。これはまずいと、ある指示書を提案したんです。これが統幕の中では大変な議論になったと。