がん経験を「関西の笑い」に包む43歳男性の人生 34歳での発症から9年目での挑戦

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不定期バー「カラクリLab.(ラボ)」(写真:谷島さん提供)

カラクリがキラキラした「表の顔」なら、カラクリLab.はドロドロした感情も吐き出せる「裏の顔」だと話す。谷島さんの第三の変化といえる。

「両方あって僕自身のバランスもとれている気がしています。がんでも、がん以外の生きづらさを抱えている人でも、カジュアルに楽しく話せる場所がリアルや、オンラインで少しずつ広がっている。その手応えは感じています」

かつて自身の価値観にひびを入れてくれた「気のいいおっちゃんや、おばちゃんたち」への、彼なりの回答にも見える。

「ムダを積み重ねたほうが人生は豊かになる」

一方、がんを機に始めたSNSでは、カラクリの活動以外に、アニメオタクであることを公言したり、「最近の僕の違和感。僕のやりたいことは啓発でも対話でもなく、八つ当たりなのだ。たぶん」と書いたりする。多様な自分を赤裸々にさらし、その書き込みに時おり200人規模で「いいね!」が付く。

「自分の内面を吐露して共感するコメントをもらえれば、素直にうれしいですよ。これも僕なりに生きづらさをたしなむ方法なんです」(谷島さん)

カラクリ立ち上げ時からのメンバーで、小児がん経験者の楠木重範(くすき・しげのり)医師(45)は、彼をこう評する。

「データに基づいて論理的に語り、感情に訴えるプレゼンも得意。仕事でもボランティアでも、バランス感覚に秀でたビジネスマンです。カラクリの地味な実務も嫌がらずに汗をかきながら、リーダー然としては振る舞わない」

一方で、がん経験者としてバーを開業したり、43歳でディープな趣味をSNSで公言したりするのはそうとうな自信がないとできない、と楠木医師は見ている。

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カラクリでの谷島さんは今、多様ながん経験者との「共創」を掲げ、20代の若手たちにも、「良質な出会いとつながりによる成長」を願う。勤務先でも近畿圏部ソーシャルデザイン室に勤務。カラクリを始め、NPOや市民活動団体などとの協働で社会貢献活動を支援している。

学生時代から表現をすることが好きで、学園祭のMCや学内ラジオ放送のパーソナリティとして活躍。反面、当時からオタク気質で協調性は皆無。「好きな人でグループを作ってください」と言われるのが一番苦手だったのに、だ。

LINEスタンプやカフェバーを作って話題にはなったが、いずれも初期投資さえ回収できていない。カラクリ制作のイラストなどが、大手紙に取り上げられても一銭にもならない。それでも、かつて生産性こそが価値だと信じていた男は今、「ムダを積み重ねたほうが人生は豊かになると思うんですよ」としれっと言う。

荒川 龍 ルポライター

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あらかわ りゅう / Ryu Arakawa

1963年、大阪府生まれ。『PRESIDENT Online』『潮』『AERA』などで執筆中。著書『レンタルお姉さん』(東洋経済新報社)は2007年にNHKドラマ『スロースタート』の原案となった。ほかの著書に『自分を生きる働き方』(学芸出版社刊)『抱きしめて看取る理由』(ワニブックスPLUS新書)などがある。

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