「僕も同じように青汁に濃厚流動食(消化機能低下時に栄養素補給のために摂取するもの)と、プロテインを混ぜたものを水筒に入れて、持ち歩いてはチビチビ飲んでいました。プロテインを加えたのは、主治医から術後は体重が20キロ以上は落ちると言われていたので、むしろ絶対に(体重を)キープしてやろうと考えていたからです」
何気ない発言に彼の反骨精神が見え隠れする。手術の後遺症で食べたものが逆流しやすく、就寝時は上半身が高くなる三角枕が欠かせない。睡眠時間が短かったり、疲労がたまったりしても逆流してくる。このプログラム中も、「果物系ゼリーなら吐くときにもおいしいので、今度は吐くときにおいしいシリーズを開発したいね」と、本気とも冗談ともつかない話をしていた。
長女の誕生前に受けた健康診断での「まさか」
約9年前、谷島さんは長女が生まれてくるとわかり、自身の生命保険を手厚くしようと考えた。会社の健康診断を例年より早めに受けると、食道に悪性腫瘍が見つかる。
長女が生まれて4カ月後には肺へ転移。翌年1月に食道と肺の一部を切除したが1年後に再発。以降、合計6回の手術を受けている。
「当初は、自分自身の価値を見失いそうになりました。がんへの怒りや悔しさがないまぜになっても、それらを吐き出す先がなかった」(谷島さん)
それまでは「何事も生産性重視」だったという彼は、その後少しずつ変わっていく。最初のきっかけは、がん患者の集会に参加し始めたこと。社会人になってから、会社以外のコミュニティに参加するのは初めてだった。
「会によっては、場の仕切りや目的も曖昧で、効率が悪いなと感じることもありました。でも、さまざまな集まりに参加してみると、そこで人を引き付けるのは人間味や温もりを感じさせる、気のいいおっちゃんやおばちゃんでした。その場では生産性よりも、人間味の“価値”のほうが高かったわけです」
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