「外交と安全保障」に安倍内閣が残したレガシー 「安保法制」「戦後70年談話」「FOIP」という成果 

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懇談会報告は、20世紀初頭の世界から説き起こし、世界が植民地主義に覆われていて、日本もその一員であったこと、しかし第1次大戦後、国際協調体制が成立していたのにもかかわらず、それに最初に大きな打撃を与えたのは満州事変であって、日本の責任はとくに重いとして、その責任を改めて想起し、戦後の日本は国際協調体制の推進に力を入れてきたことを述べている。

また、日本は戦争と植民地統治について何度も謝罪し、相当の補償も行っているのであり、これ以上、国民が謝り続ける必要はない、ただ、こういう歴史があったことを忘れないという責任のみが残っている、という趣旨を述べた。

安倍首相の談話は基本的にこの線で書かれた。その結果、侵略という言葉を使うことに反対していた右派(例えば渡部昇一上智大学名誉教授)もこれを支持し、侵略という言葉を使うことを強く求めていた左派の知識人およびメディアも、一部の例外を除いて、おおむね賛成ないし黙認するに至った。

これで、ともあれ、長く続いた歴史認識問題は一応の決着となった。懇談会は当然の事実を述べたにすぎない。しかしこれを70年談話という注目度の高いところで述べたことが、広く納得を得たのである。

日韓慰安婦に関する合意が成立したが…

そして、その延長線上に、12月、日韓慰安婦に関する最終合意が成立した。

そもそも、慰安婦問題については、1995年に村山首相当時、政府と民間の合同でアジア女性基金が作られ、首相の謝罪の手紙と償い金を渡した。朝鮮以外の元慰安婦はこれを受け取り、韓国で認定されていた200名あまりの元慰安婦のうち、61名は、これを受け取った。

それ以上に、2015年12月には、日本の拠出によって韓国に新たな基金を作り、これを持って慰安婦問題は終わりとするという合意が、両国の間に成立したのである。生存している元慰安婦のうち46人のうち36人がこれを承認し、資金を受け取った。

ところが、朴槿恵大統領のあとに大統領となった文大統領は、この合意は元慰安婦の声を十分反映していないとして、問題を蒸し返した。

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