2020年度(2020年4月~2021年3月)の国民医療費が、前年度から2~3%台の幅で減少しそうだ。このような大きな低下は、国民皆保険となった1961年4月(1961年度)からの60年間で初めてである。
この理由は、「新型コロナウイルス感染症の流行に伴う病院の受診控え」とされているが、実際にはそれほど単純ではない。背景には、新型コロナウイルス感染症対策の結果、ほかの感染症が大きく減少するなど、疾病構造が急激に変化したほか、受診の一部にあった「不要不急」のものが顕在化したことがある。
その結果として、特定の診療科の受診、特定の年齢層の受診が減少している。また、国民医療費がマイナスになるということは国民の医療費負担も減るわけであり、これを否定的に見る必要もない。このような状況を、今後の医療にどう生かせばよいのか、そのような観点から2020年度の国民医療費のマイナス傾向について、分析していこう。
2020年度の国民医療費は2~3%台の減少か
今年(2021年)2月12日に開かれた厚生労働省(厚労省)の社会保障審議会医療保険部会では、医療界の関心の高い「医療保険制度における新型コロナウイルス感染症の影響について」が、議題の1つとなった。
同部会で厚労省が提出した資料によると、2020年度(2020年4月~)の概算医療費(速報的にまとめた医療費で国民医療費の約98%をカバー)は、緊急事態宣言が発令されていた2020年4月、5月の前年同月比が、それぞれ8.8%減、11.9%減となっており、大きく落ち込んだ。
緊急事態宣言が解除された後の2020年6~8月は2~4%台のマイナスだったが、同9月は0.3%減と前年同月に近いレベルに回復した。それでも、この間(4~9月)の概算医療費は前年同期比5.2%減と大きく減っている(図表参照)。
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問題は、その後である。医療機関が診療報酬を請求するレセプトの総点数に基づく医療費(≒概算医療費、以下「国民医療費(概算)」)は、10月が前年同月比1.9%増と回復したものの、新型コロナウイルス感染症の流行の拡大(通称「第3波」)が始まった11月は同3.5%減で、再びマイナスに転じた。
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