医療費が過去60年で例のない減少となった真因 「コロナ禍の受診控え」だけで片づけられない

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つまり、新型コロナ流行の拡大や緊急事態宣言に対応する形で国民医療費(概算)が減少傾向を示している。そこから推測すると、第3波が続いた2020年12月、緊急事態宣言が再び発令された2021年1月も国民医療費(概算)はマイナスになった可能性が高い。また、昨年はうるう年で2月が29日あったことを差し引いても、緊急事態宣言が続いている今年の2月(日数は28日)も前年同月比が実質マイナスになる可能性がある。

すでに新型コロナウイルス感染症の影響が出始めた昨年3月の概算医療費は前年(2019年)同月比で1.2%減とマイナスに転じており、今年3月についてはそれが比較の基準となる。

そのような状況を踏まえ、また2020年4~11月のレセプト点数に基づく国民医療費(概算)が単純平均で4.2%減であることから、2020年度(2020年4月~2021年3月)の国民医療費は前年度比でマイナス2~3%台になる可能性が高い、と推測できよう。

とくに政策がなければ国民医療費は毎年2~3%程度増

2018年度の国民医療費は約43.4兆円で、うち4割弱が公費(後期高齢者、生活保護受給者の医療費の負担ほか)となっており、その増減は患者だけでなく国の財政にも大きな影響を与える。

国民医療費については、細かい定義があるが、基本的に健康保険に基づく医療の費用の総計と理解しておけばよい。そこには、例えば人間ドック(健康診断)や予防接種の費用、自由診療としての美容医療などは含まれない。また、介護保険での訪問看護など医療系サービスもカウントされない。

その国民医療費が前年度比でマイナス2~3%台になるほどの大きな減少幅を示すのは、過去60年間で初めてのことである。高度経済成長期にあたる1960年代から1970年代にかけて、国民医療費は対前年比で20%前後の増加を続けた。その後、1999年度にかけて一貫して増加を示している。2000年度に前年度比1.8%減となったが、これは医療保険が適用されていた訪問看護や療養病床の一部が介護保険に移行したためで、実質的にはマイナスでない。

近年では、2016年度診療報酬改定において高額なC型肝炎治療薬などの薬価を大幅に引き下げたことにより、2016年度の国民医療費が前年度比0.5%減となった。しかし、翌2017年度は診療報酬改定がないため、国民医療費は2.2%増加した。

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