医療費が過去60年で例のない減少となった真因 「コロナ禍の受診控え」だけで片づけられない

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新型コロナウイルス感染症対策の結果として、あるいは「ウイルス干渉」と呼ばれる現象により、インフルエンザなどの感染症が大幅に減ったことで、小児科の患者も大きく減少した。いわゆる「受診控え」によって、予防接種を受ける小児も減った。また、国の医療保険制度では、小児の医療費は小学校入学前までが自己負担2割、その後は3割ということになっている。

ところが、実際には、すべての都道府県と市区町村において、その自己負担分を補助する制度がある。全国どこに住んでいても、中学生までであれば医療費の自己負担は非常に少なくてすむようになっている。それは福祉施策・少子化対策になるなど、さまざまな意義があるが、安易な受診、いわゆる「コンビニ受診」をもたらす側面もある、と指摘されている。2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響で「コンビニ受診」が減ったことも小児科に影響した、とみられている。

2020年の春からマスクの着用が当たり前になったが、それが花粉症の予防につながり、耳鼻咽喉科の患者が減った、と推測される。また、耳鼻咽喉科の場合、ファイバースコープを使った独特の検査があり、これによる感染を患者側が恐れ、受診抑制につながっている、という見方がある。

新型コロナウイルス感染症対策としてのさまざまな「自粛」や緊急事態宣言の発令は、交通事故の減少をもたらした。警察庁の調べによると、2020年において交通事故の件数は前年比18.9%減。負傷者数(36万9476人)は20.0%減、死者数(2839人)は11.7%減少した。その影響もあって外科の受診が減った、とみられている。

2020年の死亡者数は実質3万人減に

最後に、注意点と論点をまとめておこう。

2020年度の国民医療費は、前述のように2~3%台の減少が予想される。だが、それは必ずしも医療機関の収入が2~3%台で同じく減ることを意味しない。例えば、新型コロナ感染症対策として、

① 2020年度の3次にわたる補正予算
② 新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金を中心とした補助金

――などがあったため、新型コロナウイルス感染症に積極的に取り組んでいる医療機関であれば診療報酬とは別に、一定程度の臨時的な収入が得られるはずである。

次ページ2020年度の国民医療費の動向が示す本当のニーズ
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