70代の高齢警備員「老後レス社会」の過酷な現実 人生から「老後」という時間が消えてゆく
ところが、こうして公私の区別が曖昧になった意識が放漫経営につながります。競馬にのめり込み、不動産などへの投資も失敗。そのツケは、税金約2500万円の未払いという形で回ってきました。会社の信用はガタ落ちで、収入があっても銀行口座は税務署に差し押さえられます。働く意欲は薄れ、売り上げも激減していきました。
自営業で国民年金の加入期間が長かったこともあり、年金は夫婦で月6万円ほど。自宅を手放した後に移ったアパートの家賃6万6000円を含め、生活費を稼がなければなりません。そして、手っ取り早く稼ぐために残された道が警備員の仕事だったのです。
職場は「70歳以上が8割」
柏さんの“警備員デビュー”は68歳のときでした。しかし警備会社で働いてみて、自分よりも年長の70歳以上が8割を占めていることを知り、驚いたそうです。なかには80歳を超える人もいました。
80歳を超えた警備員の実例を紹介しましょう。千代栄一(ちよ えいいち)さん、85歳。2020年4月まで、警備員として働いていました。
職場は千葉県内のパチンコ店で、駐車場に出入りする車の誘導が主な仕事です。早番(午前7時半から午後3時半まで)か遅番(午後3時半から午後11時半まで)のシフトで月に20日働き、月収は18万円ほど。
所属していた警備会社の面接を受けたのが、ちょうど80歳のときでした。「働かせてくれるのは75歳までと言うから、サバを読んだ(笑)」と打ち明けます。
もともとは左官業を営み、最盛期には80人の職人を束ねる親方でした。大手ゼネコンの仕事を請け負って、東京タワーなどの建設に携わったことも。しかし、連帯保証人となった知人の負債を肩代わりするため、自宅も手放す羽目になってしまいました。
年金は受給しているものの、娘と暮らすアパートの家賃と生活費の不足分を補うには、働き続けなければなりません。そこで警備会社の面接に臨んだのです。“年齢詐称”は、やがてバレてしまいますが、まじめな仕事ぶりが評価され、そのまま働くことができました。
ところが、2020年からのコロナ禍で、職場だったパチンコ店が休業。千代さんの仕事はなくなり、警備会社を辞めざるをえなくなりました。
その後、ハローワークにも通ってはいますが、「年齢の壁」のせいで、なかなか仕事が決まりません。高齢者歓迎の求人でも、「75歳が上限」が多いのが現実なのです。
医者にかかったのは花粉症と歯の治療くらいというほど健康な千代さんは、「万が一、85歳を雇って何かあったら、会社のほうが責任を問われるって言うんだよね」と話します。働いて稼げなくなったので、家賃の安いアパートに引っ越しました。