70代の高齢警備員「老後レス社会」の過酷な現実 人生から「老後」という時間が消えてゆく

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警察庁が毎年発表する「警備業の概況」によると、2019年末時点で全国57万人の警備員のうち、60歳以上は45%です。さらに70歳以上が増加しつつあり、全体の15%にまでなりました。つまり警備員の7人に1人以上が70歳以上なのです。

工事やイベントで警察から道路使用許可を得るために、施工業者は、道路規制図を添えて警備員の配置を書き込み申請します。このとき、安全が確保される人数が配置されないと許可が出ません。また、もし後から配置されていないのが見つかると、業者が処分されます。

こうして生まれる雇用が、「年金の足しに」と働く高齢者を支える構図が見て取れるようです。

「一億総活躍」と「自助」の陰で

2019年度にハローワークで新たに登録した65歳以上の求職者は、約59万人に上り、10年前の2倍近くに迫る勢いです(厚生労働省の統計から)。

労働政策研究・研修機構の調査(2015年発表)では、「60代が働いた最も主要な理由」は「経済上の理由」が最も多く、約58.8%。また、2019年度の内閣府の世論調査では、「日頃の生活で悩みや不安を感じている」と回答した人に理由を聞いたところ、「老後の設計」を挙げた人が56.7%(複数回答)で最多でした。

そんななか、安倍晋三前首相は在任中、「一億総活躍」というスローガンを掲げ、高齢者らの就労を促す方向に舵を切りました。2019年10月4日に召集された臨時国会の所信表明演説で、安倍氏はこう語っています。

「65歳を超えて働きたい。8割の方がそう願っておられます」

「(高齢者の)豊富な経験や知恵は、日本社会の大きな財産です。意欲ある高齢者の皆さんに70歳までの就業機会を確保します」

この総理の発言がネットで炎上しました。

「働かなきゃ食えないんだよ!」

「大半の人は『働きたい』じゃなくて、『働かざるをえない』ですよね」

現役世代が減っていく以上、高齢者の力を生かすことの重要性は、むげには否定できません。しかしその一方で、政権の姿勢には危うさも感じられます。高齢者の増加に伴って必然的に増える公的支援を、できる限り抑えることに力点が置かれているように見えるからです。

『老後レス社会 死ぬまで働かないと生活できない時代』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします )

「リタイア」「楽隠居」「余生」「悠々自適」……。かつては高齢者に付きものだったこれらのフレーズが、次第に遠のきつつあるようです。まさしく「老後がない」=「老後レス」社会が忍び足で近づいています。

安倍氏を継いだ菅義偉首相は、目指す社会像として「自助・共助・公助」を掲げ、次のように述べました。

「まずは自分でやってみる。地域や家族が互いに助け合う。そのうえで政府がセーフティーネットでお守りする」

この考えを、そのまま「老後レス社会」に当てはめるのは乱暴すぎるでしょう。65歳以上の心身の状態はまちまちで、若者並みに働ける人もいれば、手厚い介護が必要になる人もいます。「まずは自助だ」と言われても、病気や老いで働けない人や、いくら働いても生活費を賄えない人たちは、途方にくれるしかありません。

朝日新聞特別取材班
あさひしんぶんとくべつしゅざいはん

格差と超高齢化によって、人生後半の生き方、そして働き方が大きく変わろうとしている。その現在地を報じようと、各部の一線記者が集まった。未曽有の少子高齢化・人口減少問題に取り組む長期企画「エイジングニッポン」の一環として、2019年に「老後レス時代」シリーズの取材を開始。就職氷河期世代を「ロストジェネレーション」と名付けた同紙の企画とも連動している。執筆陣は総勢9人。

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