米国「巨額コロナ対策」経済学者が心配するワケ 民主党の中道路線が四半世紀ぶりの岐路に

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しかし、インフレが高進し、上昇した物価が賃金を上昇させ、上昇した賃金がさらに物価を高騰させるという悪循環が姿を見せ始めれば、FRBは負の連鎖を断ち切るべく利上げに動くに違いない。そして、その過程でアメリカ経済が不況に落ち込む可能性もある。

バイデンがうたう「現実路線からの卒業」

もっとも、今回のような論争が浮上したからといって、民主党の経済学者の間で思想的な亀裂が広がっているということにはならない。そこにイデオロギー的な溝は見られない。

とはいえ、その背後には、産出量ギャップの規模や、経済対策が大きすぎる、あるいは小さすぎることに伴うリスクは何なのか、といった技術的な論点を超えた、もっと深い対立がある。バイデン氏のアプローチには、テクノクラート(専門家)が幅を利かせる民主党内の空気を否定する、といった意味合いがあるからだ。党内左派の多くは、テクノクラートによる現実路線のせいでアメリカの傷が深まったと考えている。

クリントン、オバマ両大統領は経済政策に関する助言を、ロバート・ルービン氏に連なる経済専門家たちに頼った。1990年代にクリントン政権で財務長官を務めたルービン氏は、同政権2期目に財務長官となったサマーズ氏の指南役を務め、そのサマーズ氏がオバマ政権1期目に財務長官となったティモシー・ガイトナー氏の指南役を務めるといったように、「ルービン一門」の系譜は民主党内で綿々と受け継がれていった。

ルービン氏の系譜に連なる政策立案者らは、自らのスタンスを緻密で慎重にして現実的と位置づけているが、党内左派の評価は違う。ルービン氏の流れをくむ経済学者はあまりに穏健かつウォール街寄りで、労働者階級を持続的に支える政治というものがわかっていない、といった評価が党内リベラル陣営の中では大勢を占めている。

バイデン氏は、ルービン氏の流派に属さない人材を多数、政権に引き入れた。財務長官のイエレン氏がまさにそうだ。オバマ政権が初期に犯したと考えられている過ちを正そうとしているのである。当時、オバマ政権で経済政策の司令塔となっていたのがサマーズ氏(当時のポストは国家経済会議=NEC委員長)とガイトナー氏だった。

つまり、コロナ対策の規模をめぐる今回の論争は、産出量ギャップやインフレリスクなどにとどまるものではない。これはある意味で、民主党内の政策決定でどちらのサイドが主流派となるかを決する論争といえる。

(執筆:Neil Irwin記者)
(C)2021 The New York Times News Services

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