米国「巨額コロナ対策」経済学者が心配するワケ 民主党の中道路線が四半世紀ぶりの岐路に
同氏が問題視しているのは、その規模だ。バイデン氏の案はあまりに巨額で、将来的に大きな問題となる恐れがある、と言うのである。その証拠に、1.9兆ドルというバイデン氏の経済対策の規模は「産出量ギャップ」(「需給ギャップ」「GDPギャップ」と呼ばれることもあるが、詳細は後述)のあらゆる推計値を大きく上回っている。
産出量ギャップを大幅に超過する資金を注ぎ込めば、その大半が経済の表面をばしゃばしゃと無駄に跳ね回るだけで、むしろ物価上昇と新たな不況のリスクを大きくする、という理屈だ。
これはゴリゴリの財政タカ派とハト派による、お決まりの論争とは違う。もっと微妙なものだ。とりわけサマーズ氏は、主要国が低成長の泥沼にはまり込む「長期停滞」への対抗策として、大規模な財政支出を求めてきたことで知られる。今回のパンデミックに対しても、大型の経済対策を支持する立場をとっている。
ただ、新たな経済対策の支出は時間をかけて段階的に行い、内容的にも、もっと長期的な投資に軸足を置いたものとするべきだ、とサマーズ氏は主張しているのである。
「速度制限」の根拠
では、問題の「産出量ギャップ」とは何か。それを理解するには、まずアメリカ経済のエンジンがフル回転しているところを想像してほしい。そうした状況では、働きたい人のほぼ全員が仕事を見つけられ、あらゆる工場がフル操業となっている。産出量ギャップとは、簡単に言えば、現在の経済がこうした理想状態とどれくらいかけ離れているかを示すものだ。
財政政策の伝統的なアプローチでは、まずこのギャップの大きさを見積もり、それをベースに乗数効果やら、あれこれの調整を加え、景気対策の規模を決定する。
政府支出があまりに過大なものとなれば、理論的には経済の本来の能力(潜在産出量)を上回る経済活動を引き出そうとしていることになるわけだが、そんな状態を長く維持するのは不可能だ。モノやサービスの供給を上回る量のマネーをじゃぶじゃぶと経済に流し込めば、経済が繁栄するどころか、インフレが高進し、むしろ経済を痛める。
こうした伝統的な考え方にのっとるなら、サマーズ氏ら、バイデン氏の政策に懐疑的な人々の主張にはしっかりとした根拠がある。というのは、議会予算局(CBO)の見通しでは、2021年の産出量ギャップは4200億ドルにしかならないからだ。