米国「巨額コロナ対策」経済学者が心配するワケ 民主党の中道路線が四半世紀ぶりの岐路に
正統派のリベラル派経済学者の間で熱い論争が繰り広げられている。狭い学術サークルの話ではない。アメリカ経済の未来とバイデン政権の今後を左右する論争だ。
中心にある命題は、バイデン政権による1.9兆ドル(約200兆円)の新型コロナウイルス対策案の規模が大きすぎるのかどうか。新型コロナによる経済被害を食い止め、経済を早期に完全復活させるのに、ここまで大規模な経済対策が必要なのか。
それとも、ローレンス・サマーズ氏(クリントン政権で財務長官を務めた)やオリビエ・ブランシャール氏(国際通貨基金=IMFの元チーフエコノミスト)といった中道左派の大物経済学者がこのところ主張しているように、これはあまりにも行き過ぎた対策で、インフレの高進を招き、不況を引き起こすきっかけとなりうるものなのか——。
アメリカ経済の帰趨がかかっている
こうした意見の衝突は、タイミング的にも重要な意味を持っている。議会上院の勢力図は民主党と共和党で50議席ずつと真っ二つに割れており、民主党の上院議員が1人でもサマーズ氏やブランシャール氏の主張になびくなら、バイデン大統領の野心的な政策は後退を余儀なくされる可能性がある。バイデン政権とアメリカ経済の帰趨が懸かっているということだ。
議論の中身は、経済の「スピードリミット」、財政赤字のリスク、インフレの原因といったマクロ経済学の重要概念と関わっている。ただ、そこで展開されている議論の中身を、論者の経歴と分けて考えるわけにもいかない。クリントン政権時代に、その後の民主党の政策を決定づけた人々の影響がそこかしこに見られるからである。
まずは、論争の経緯とポイントから整理していこう。
政策立案に長年関わってきたベテラン経済学者の間では、バイデン氏の対策規模を問題視する私的なメールやショートメッセージが何週間とやりとりされていた。そうした懸念をワシントンポスト紙のオピニオン記事で公にしたのがサマーズ氏だった。ブランシャール氏はツイッター上で、これに賛同。オバマ政権で大統領経済諮問委員会(CEA)の委員長を務めたジェイソン・ファーマン氏もサマーズ氏に一定程度、味方した。
もちろん、サマーズ氏は財政支出そのものを否定しているわけではない。弱者に対するセーフティーネットの強化も有意義だとしている。