官製ベンチャーファンドのお粗末、初案件は“大企業”支援
“官製ベンチャーキャピタル(VC)”と鳴り物入りで昨年7月に発足した官民ファンド「産業革新機構」。設立から9カ月も出資先を決めきれず開店休業と揶揄されてきたが、3月末ようやく初案件を決定した。
ところが、その出資先は東証1部上場の大企業・アルプス電気が事業分割で設立する新会社。アルプスの片岡政隆社長でさえ「機構の支援がなくても事業化を選んだ。単独で行うことも選択肢としてはあった」と打ち明けるほど、1号案件はあまりにも手堅い投資だ。
機構はベンチャー投資活性化の起爆剤として期待されて設立。政府が820億円、民間19社が100億円を拠出、8000億円の政府保証も合わせると総額1兆円近い投資能力を持つ巨艦ファンドだ。主な事業は(1)オープンイノベーションの推進、(2)民間VCの投資案件を後押しするセカンダリー投資、(3)大企業が持つ革新的事業のカーブアウト(切り出し)の三つだ。
「所管する経済産業省は当初、あくまでベンチャー投資が狙いと説明していた」(設立過程を知る専門家)うえに、支援基準にも「民間事業者のみでは通常実現しがたい事業活動を後押しする」と記されている。アルプスのような大企業が実権を握る事業への投資を「民間のみでは実現しがたい」事業へのベンチャー投資といえるのだろうか。
今回出資する新会社は、電気自動車や次世代送電線網などに組み込む小型・高効率の電子部品を手掛ける会社で、アルプスの本業に限りなく近い。機構は30億円を出資、26・1%の株式を引き受ける。出資は今回の30億円を含め最大100億円。筆頭株主としてアルプスが主導権を握る構図は今後も変わらない。
機構は「アルプス本体への出資ではなく適切」と説明するが、はたして設立の趣旨に合うのかどうか。むろん、アルプスにとって100億円程度の資金調達がネックになることはなかったはずだ。銀行借り入れより格段に有利なスキームを利用するという、民間企業として当然の判断をしたまでだろう。