埼玉・日高「メガソーラー法廷闘争」が招く波紋 豪雨被害や景観破壊恐れ、条例の規制強まる中で

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このところ相次いで制定された太陽光発電設備設置をめぐる市町村の条例に関連して事業者が起こした訴訟はあったが、「条例施行前の着工で条例の規制を受けない」と主張するなどの内容だった。条例そのものが無効であるとの訴訟が提起されたのは、日高市のケースが初めて。

環境問題と地方自治体の条例に詳しい小島延夫弁護士は「メガソーラーの開発が環境保全や景観保護上、深刻な問題をもたらしており、各地で市町村が条例を作って対応することが増えてきている。本格的に事業者が争う姿勢を見せたときに、その条例が適法性を持っていると言えるのか、市町村は検討を求められている。その点が、問題提起された」と話している。

先進的な要綱持つ自治体も条例化に慎重

最近では、メガソーラー建設をめぐり、自治体側は事業者に対し、地域住民との協議を尽くすよう求めるようになってきた。

埼玉県比企郡の鳩山町は2018年3月に告示された「太陽光発電施設の設置に関する要綱」を昨年2月に改正した。この要綱自体、地域環境や住民と調和した事業を実施するよう事業者に促すことを目的としている。

改正により、町は事業者から事前相談届出書が出されたときは、町のホームページで計画内容を公表し、事業者による説明会についても、町がホームページに掲載して知らせることになった。これまで建設予定地の周辺住民は、計画段階では事業の規模や内容について知らされないことも多かった。町がホームページ上に事業の計画内容を載せるのは、画期的だ。

鳩山町によると、この要綱に基づく事前相談の届け出が出された件数は2018年度には5件、2019年度に13件、2020年度には9件(2021年1月28日現在)。2018~2020年度の計27件のうち、すでに稼働しているのは3件のみで、残り24件は建設中もしくはこれから建設予定という。

人口約1万3000人の鳩山町は太陽光設備の建設ラッシュのただなかにあり、「要綱」の「条例」への格上げを求める声が住民から上がっている。町は条例化について、規制の色合いが濃い条例にするべきか、より適正な事業に誘導する形の条例のほうが効果的か、目下、検討中という。日高市条例が事業者側から「違憲、無効」と提訴されたことの影響があるのだろうか。担当者に聞いたところ、「あります」との答えが返ってきた。

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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