緊急事態宣言の経済損失試算が大きく違うわけ 人々の心理・行動の変化と収束をどう読むか

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「再緊急事態宣言」について、前回の「緊急事態宣言」と比較した場合の3つの前提の変化を考慮すると、「経済損失」は前述のシンプルな試算からはかなり小さくなる可能性がある。

まとめると、「ポイント①:人々の移動を抑制していた『恐怖心』はかなり軽減されている」によって影響は3分の2に縮小すると考えられるうえに、「ポイント③:すでに人々は『新しい行動様式』に対応している」ことによって影響は2分の1になると予想できるため、少なくとも個人消費の減少は前回の3分の1(=2/3×1/2)程度と見積もることができるだろう。金額で言えばマイナス0.5兆円(マイナス1.4兆円×1/3)となる。

延長されれば「数兆円の損失」が現実に

ただし、この試算は、「再緊急事態宣言」の対象が「1都10県」で期間が「1カ月」にとどまるという仮定を置いている。そのため、個人消費の減少による「個人消費以外への波及効果」を考慮していない点には留意が必要である。

冒頭で述べたように、筆者は各社の試算結果をすべて把握しているわけではないが、「経済損失は数兆円規模」とされている試算は多かれ少なかれ「波及効果」を損失に含めているのだろう。

例えば、個人消費が減少すれば、企業業績の悪化が予想され、関連業種の労働者の賃金が減少することは想像に難くない。その場合、「緊急事態宣言」が解除された後の以降の個人消費も抑制されるだろう。次年度まで影響を考えれば、企業が業績悪化によって設備投資を抑制する可能性もあるだろう。これらの「波及効果」は多数の数式を用いたマクロ経済モデルなどで試算することができる。

しかし、どのようなタイムラインで「波及効果」が出てくるのかどうかを予想することは困難であるだけでなく、「緊急事態宣言」の期間がどの程度延長されるのかも予想しがたい。さらに、「緊急事態宣言」が延長されるということは「自粛が弱い」ことが前提となっている可能性も考えると、経済のパスはさらに複雑化する。

さまざまな試算結果はある程度幅を持ってみる必要があるだろう。そして、「再緊急事態宣言」が経済に与える影響は、人々の行動変化と感染「第3波」の収束状況を丁寧にウォッチしていく必要がある。

末廣 徹 大和証券 チーフエコノミスト

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すえひろ とおる / Toru Suehiro

2009年にみずほ証券に入社し、債券ストラテジストや債券ディーラー、エコノミスト業務に従事。2020年12月に大和証券に移籍、エクイティ調査部所属。マクロ経済指標の計量分析や市場分析、将来予測に関する定量分析に強み。債券と株式の両方で分析経験。民間エコノミスト約40名が参画する経済予測「ESPフォーキャスト調査」で2019年度、2021年度の優秀フォーキャスターに選出。

2007年立教大学理学部卒業。2009年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了(理学修士)。2014年一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略・経営財務コース修了(MBA)。2023年法政大学大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程修了(経済学博士)。

 

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