緊急事態宣言の経済損失試算が大きく違うわけ 人々の心理・行動の変化と収束をどう読むか

✎ 1〜 ✎ 51 ✎ 52 ✎ 53 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

この結果を勘案し、下記のように今回の「再緊急事態宣言」の影響を試算すると約1.4兆円の消費減と見積もることができる。

「月次の個人消費」(約25.3兆円)×「前回緊急事態宣言時の消費減少率」(9.0%)×「1都10県経済の全国比」(59.7%)= 約1.4兆円

ただし、前回の「緊急事態宣言」の例を単純に当てはめることは正しくないだろう。前回とは前提が異なる点も少なくない。筆者は少なくとも考慮すべき前提の変化が3つあると考えている。この3つを考慮すると、「経済損失」は上記の3分の1以下の約マイナス0.5兆円にまで影響は縮まるとみている。

3つの変化が前回よりも影響を小さくする

ポイント①:人々の移動を抑制していた「恐怖心」はかなり軽減されている

1つ目は、人々の行動を抑制していた「恐怖心」(行動経済学的なバイアス)が、かなり軽減されている点である。この点に関して、5日の朝日新聞は東京大学経済学部の渡辺努教授らの研究を紹介している。渡辺教授らの研究によると前回の「緊急事態宣言」による外出抑制効果は約8%にすぎず、増加する感染者や死者数の情報から得る恐怖心による効果のほうが大きかったという。渡辺教授は「恐怖心は春をピークに弱まっている。今や若い世代の大半は恐怖心を持っていない」などと指摘しているという。

筆者も、2020年12月26日のコラム『コロナ「第3波」、行動への影響は統計的に「ゼロ」』にて、感染「第1波」から足元の「第3波」までの時間の経過の中で「感染者数の変化」と人々の行動データ(Googleのモビリティーデータ)の相関関係が薄れていることを示し、足元では「人々は日々の『感染者数』のヘッドラインにより行動を変化させることが極めて少なくなった」とした。

これは、人々の「マインドセット」の変化によってもたらされている可能性が高い。具体的には、感染のリスクを過剰に解釈してしまう「損失回避」のバイアスと、ウイルスに関する情報の不足によって悪い情報を過剰に重視してしまう「利用可能性ヒューリスティック」のバイアスが、徐々に解消されてきたことが大きいだろう。

12月26日のコラムで示した筆者の推計では、感染「第1波」にレストラン・ショッピングセンターの利用がマイナス30%となった要因のうち、「緊急事態宣言」による直接の影響はマイナス20%だった。残りのマイナス10%は「恐怖心」や「損失回避」などのバイアスによるものだったとみられる。したがって、「再緊急事態宣言」による行動の抑制効果は前回の約3分の2にとどまるだろう。

ポイント②:今回は制限の対象が「飲食店」に限られる

今回の「緊急事態宣言」では、営業制限の対象が「飲食店」に限られる。Googleの移動データによると、前回の「緊急事態宣言」は「食料品市場、ドラッグストア等」や「国立公園、公共ビーチ等」の利用も減少させたが、今回はこれらの利用が制限されることはあまりないだろう。

個人消費における「一般外食」の比率はコロナ前(2019年平均)でも約4.0%にとどまる点を考慮すれば、影響は一段と限定的となるだろう。

次ページ不要不急支出には大きな変化
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事