政府は新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、「緊急事態宣言」を再発出した。対象地域は当初、東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県に限定されたが、足元では11都府県に拡大された。期限は1月8日から2月7日までだ。前回、2020年4~5月に「緊急事態宣言」が発出された際には、同年4~6月期の個人消費が前期比マイナス8.3%となり、実質GDP(国内総生産)も同じく前期比マイナス8.3%となった。金額にすれば、それぞれマイナス6.1兆円、マイナス11.3兆円となった。
1都3県までの段階ですでに、今回の「再緊急事態宣言」が及ぼす経済損失について、多くのシンクタンクやエコノミストが試算を発表している。そして、各社の試算値の報道をみて、筆者は「かなりバラつきが大きいな」と感じた。筆者は各社の試算をすべて把握しているわけではないが、損失額は大きいほうで3兆円台(年度の成長率への押し下げ効果はマイナス0.7%ポイント程度)、小さいものだと数千億円(仮に5000憶円とすれば、同マイナス0.1%ポイント程度)である。これでは、経済への影響は大きいとも小さいとも言い難い。
そこで、なぜ今回の「再緊急事態宣言」の経済損失にはこれほどばらつきが出るのかを今回のコラムでは考察したい。結論を先に述べると、「人々の行動変化(自粛の強さ)を予想することが困難」であることや、一方で、「自粛が限定的となれば、『緊急事態宣言』の延長されるリスクが高まり、それによってさまざまな『波及効果』を考慮せざるをえない」という難しさがある。
自粛の範囲と期間とにトレードオフの関係
限定的な「自粛」は経済活動をそれほど抑制しない可能性がある一方、長引けば経済へのダメージはじわじわと大きくなる。そして、ここにはトレードオフの関係(自粛が弱ければ期間は長くなる)があると予想され、経済パスを予想することは一段と困難である。人々の「心理面」の変化と未知のウイルスの感染動向をエコノミストが予想するのには限界があると言わざるをえない。
限界があると認識しながらも、筆者もエコノミストとして、すでに所属先から「再緊急事態宣言」の影響についてレポートを出している。その際に基準とした試算は下記である。
前回の「緊急事態宣言」時(4月7日~5月25日)とほぼ一致する2020年4~5月の2カ月間の個人消費の減少率を確認すると、季節調整済み月平均で比較して、同年1~3月期のマイナス9.0%だった。
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