「渋沢栄一」が20代で発揮した人の心をつかむ技 上司・慶喜を口説き、農民と親しんで人材募る

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ほかの数十カ村からは反応がないので、これは庄屋たちを背後から掣肘している者がいるな、と読んだ栄一は、庄屋たちを集めて決めつけるように告げた。

庄屋たちを集めて、説得を試みる

「乃公はこれまでの一橋の家来のように普通一般の食録を貪って無事を安んじて居る役人と思うと大きな間違いであるぞ。事と品によっては荘屋の10人や15人を斬り殺すぐらいの事は何とも思わぬ(略)、今この通り自分の赤心を打ち明けて話したから、各々にも包み隠さずにこれまでの機密を陳述したがよい」(『雨夜譚』)と談じると、とても包み隠しはできないと見て、庄屋たちが事情を打ち明けた。

お代官がかねがね我々におっしゃるには、黒川嘉兵衛さまには山師根性があり、村々へ種々面倒な事を申しつけることがある。それに服従していると難儀なことになるから、なるたけ敬して遠ざけるのがよい、とのことでした。

今度の歩兵取り立てについても、ひとりも志願する者はいないといえば、それで済むと思い、希望者は実は沢山ありましたが、ひとりも願い出ないと申したのです。

しかるに旦那様(栄一)が、書生や撃剣家を敬愛なされるので、旦那様に直に農兵になりたいと内願する者もあらわれ、もはや内願者を押さえることはできません。今申し上げたことは、お代官には何卒内分に願います。

――ではその方たちの迷惑にならぬよう代官に談じることにしよう。

そう応じた栄一は、代官と談判。志願者がないのは人選の仕方が悪いか、代官の平生の薫陶が悪いからだ。かかる重大な御用で出張してきたのに、農兵が募れなかったときは、理由を明らかにせねばならず、貴殿にいかなる迷惑を及ぼすかわからない、というと、代官は委細承知しました、と態度を改めた。

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