ゴールデンカムイに見る「アイヌ」の食の知恵 味つけには少量の塩。みそは使われなかった
アイヌの伝統的な保存方法は塩蔵ではなくて乾燥させること、そして乾燥させたものを囲炉裏の上に下げておいて燻製にすることです。ウグイやアメマスといった比較的小さな魚は、「焼き干し」といって、串に刺していったん焼いたものを、そのまま食べるのではなく、囲炉裏の上の火棚という棚に乗せておいて燻製にします。そして食べるときにはそれをぽきぽき折って鍋の中に入れ、それでだしを取ります。
肉の場合も同様で、シカやクマの肉は細長く切って、1回さっとゆでてから、竿にかけて干します。これを「ゆで干し」というのですが、こうすると細胞が壊れて、生で干すよりもずっと早く乾燥し、腐らせる危険性が減ります。そして乾燥した肉を囲炉裏の上に干して燻製にしておき、食べるときには水に戻してから切って鍋に入れるのです。
シカやクマばかりでなく、キツネやタヌキやウサギやリスなども食べていたそうです。あるおばあさんの話では、タヌキはそのままではとても臭くて食べられないが、燻製にする(北海道弁で「いぶしをかける」)と、とてもおいしく食べられたとのことでした。
燻製には細菌の増殖を防いで保存力を高めるという効果とともに、獣肉の臭みを消すという香辛料の効果もあったのです。
いろんな山菜が香辛料として使われていた
香辛料としてはいろいろな山菜も使われました。その筆頭はプクサとかキトとアイヌ語で呼ばれているギョウジャニンニク(北海道ではキトビロともいう)でしょう。
かつては北海道の山菜の王者でしたが、今では栽培もされていて、北海道のスーパーに行くと普通に売っています。ジンギスカンと一緒に焼いたり、しょうゆ漬けにして食べたりしますが、ニンニクとニラを掛け算したような、強烈な匂いが特徴です。昔はこれを刻んで干してとっておいて、鍋の中に味つけとして入れました。
また、シケㇾペと呼ばれる、キハダ(これが和名)という木の実も、香辛料として使われました。カボチャや豆などを形がなくなるまで煮たラタㇱケㇷ゚に混ぜたり、油で練ってシトという団子にまぶしたりして食べましたが、実はキハダは黄檗という漢方薬の原料になる木で、その名のとおり幹の外皮を剝ぐと真っ黄色で、なめてみるとえらく苦いものです。その成分が実にも入っていますので、苦甘い、本当に胃腸薬のような味です。
これを香辛料として使うのはアイヌだけかもしれません。しかし、慣れてしまうと、ラタㇱケㇷ゚にこれが入っていないとなんとなくもの足りなかったりします。
こうした味つけの工夫が、やがてみそ・しょうゆの浸透でそれに置き換えられていき、みそを見ても「オソマだろ、これ!」と叫ぶ人もいなくなったのです。
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