新大久保を書き尽くす46歳ライターの快活人生 バックパッカーはタイを経て日本に戻ってきた

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だが新大久保は韓国以外にも、さまざまな国々の人たちが生活している街だという。

「新大久保にはイスラム、ベトナム、ネパール、バングラデシュ、ウズベキスタン、パキスタン、ミャンマー、タイなどなど多国籍の人たちが住んでいます。これだけいろんな民族を飲み込んだ街はめったにないと思います」

室橋さんが、新大久保に住んだ感想はどのようなものだったのだろうか?

新大久保のイスラム通り(撮影:村田らむ)

「正直、住みづらかったですね(笑)。観光地という側面もあるので、とにかく人が密集していて歩きづらいです。

日本人の観光客も多いですが、新大久保に住んでいない外国人も、新大久保を頻繁に訪れます。スパイスを買ったり、送金したり、自分の信仰する宗教の施設に行ったりとなにかと便利ですから、みんな遊びにくるんです」

街に溶け込んだ取材により執筆したルポが評判に

室橋さんは、外国人客でにぎわう「新宿八百屋」で働く人たち、ルーテル教会の牧師さんなど数十人の外国人に話を聞いたり、4カ国合同の『大久保フェス』に参加したりするなど街に溶け込んだ取材をして『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』(辰巳出版)を執筆した。

『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』(辰巳出版)

「ありがたいことに書籍の評判もよく、さまざまな媒体で取り上げていただきました。今は新大久保については書き尽くした、という気持ちになっています。

取材の過程でたくさんの人と話をして、ネパールやバングラデシュのコミュニティーの、少しだけですが一員にしてもらった感覚もあります。今や新大久保に対しわが町みたいな気持ちが芽生えており、離れがたくなっていますね」

室橋さんは、常日頃街を見続けているから、

例えば、

「ネパールのビザが厳しくなっているから、最近はネパール人が少なくなっているな」

など、街のちょっとした変化にも気づくことができる。

そんな室橋さんにとって現在いちばんの気がかりは、新大久保にも深刻な影を落としている新型コロナウイルスだ。

「現在はコロナで留学生が激減しています。新宿は4万人の外国人がいるといわれていますが、半分は留学生です。1年で2000人減っていて、これからもっともっと減りそうです。学校の経営も大変ですが、海外の学生を店員として雇っているコンビニや居酒屋も厳しいです。やっていけなくなるお店が出始めるかもしれません。

新型コロナは、全世界的な災害だから衰退する部分があるのは仕方がないです。ただ、

『新大久保からコロナが広がった』

という事態になったり、周りに非難されたりするようになるのは最悪です。だからいろいろな国の言葉で街の人たちに、

『コロナに気をつけよう!!』

と呼びかけています。しっかりと感染を抑えなければいけないですね」

話を聞いて、室橋さんは、ライターとしてとても誠実だと思った。現場にしっかりと根をおろして取材をする。取材当日だけ足を運んで、パッと話を聞いただけでは、とても手に入れることができない濃い情報を手に入れ、それを基に原稿を書いている。

誰にでもできることではない。

これからも、真に迫るルポルタージュを読ませてもらいたいと思った。

村田 らむ ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター

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むらた らむ / Ramu Murata

1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。

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