室橋さんはタイに住んでいる10年間で、日本に帰った回数はたった2回だったという。
「1回目は『Gダイアリー』に入るときで、書類が必要だったんです。2回目は取材で韓国の釜山に旅行に行ったんですが、時間が余ったんで対馬に遊びに行きました。その2回っきりですね。
タイは本当に居心地がよかったです。とても優しい国で、あっという間に時間が経ちます。心地いいのですが、ただこのままタイにいたら成長できないかもしれないとも思いました。今ならタイで培った経験もあるし、人とのつながりもあるし、
『書き手として、もう1度日本で勝負しようかな?』
と思い至りました」
室橋さんは7年前に日本に帰国した。
埼玉の実家に住み始めたが、実家から東京に出るにはかなり時間がかかった。
それでは効率が悪いため、出版社に打ち合わせに行ったり、飲み会に参加したりした後は、漫画喫茶やサウナに泊まった。また仕事用の机を無料で借りることができるサービスのある図書館で仕事をした。
『Gダイアリー』時代に知り合ったライターには、大手の出版社で仕事をしている人も多かったので、そのつてをたどって企画を持ち込んだ。
日本は便利だが“怖い”と思うことも
室橋さんにとって10年ぶりの日本は、どのように感じただろうか?
「すごい新鮮でしたね。とにかく街は便利ですし、食べ物はおいしいですし、当たり前ですけどどこでも日本語が通じることにびっくりしました。役所の手続きとかしてて、なんて簡単なんだ!!って(笑)。
ただちょっと“怖い”と思うこともありました。電車の中やコンビニの中で、男性が怒鳴っているのを見かけることがありますよね? だいたいが老人です。店員や若者に向かって辛辣なことを吐き捨てたりしています。そういうのって、タイの暮らしの中ではほとんど見たことがありませんでした。日本に住んでいるときには気づきませんでしたが、日本にも怖いところがあるんだなと感じました」
取材の過程で外国人がたくさん暮らす街へ行く機会があった。足を運んでみると、室橋さんにとってはむしろ過ごしやすいと感じた。
「調べてみたら日本のあちこちにそういう場所がありました。日本国内のことを知らなすぎるという反省もあって、それからは日本国内の外国人コミュニティーを積極的に回るようにしました」
はじめは趣味で回っていたが、すぐに雑誌にルポを連載することになった。
そして2019年に『日本の異国: 在日外国人の知られざる日常』(晶文社)という、在日外国人の日々について迫った単行本を出版した。
「この本はメディアに取り上げられることが多く、僕も専門家のような扱われ方をしました。
それならば極めたほうが面白いだろうと思い、新大久保に引っ越しました」
新大久保は日本でも最大級の外国人コミュニティーを有する街だ。一般的にはコリアンタウンが有名だ。
韓流ブームもあって、若者にもとても人気が高い。現在は、原宿の竹下通りのような雰囲気になっている。
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