SHOWROOM前田社長が放つ、「プロ」の短尺動画 視聴者はみな心の空洞を埋めようとしている

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━━足先を行く中国では、ネット中継で商品を販売する、ライブコマース市場が急成長しています。中国発のTikTokは日本でもはやっていますが、ライブコマースは日本でも同様に普及しますか。

ライブコマース市場において、確かに中国は先を行っているだろう。1日に4000~5000人以上もの配信者が、累計約15万時間以上の長時間にわたり配信する世界で、中には1日で80億円を超える売り上げを作ったライブコマース・プラットフォームもあると言われる。企業も販促セールの際などにインフルエンサーとタイアップし、「この人のもとで買えば半額です」と謳ったりして、消費者の新たな購入経路として確立されている。

SHOWROOMでも数年前から、ライブコマース事業に経営資源を割いており、それは今後も継続する。商品の効能や本物性が担保されやすい日本とは異なり、中国ではライブ配信を通じて商品の効果や信頼性を確認する文化があると感じる。中国では商品紹介者の生の声を聞く事で安心感を得つつ、さらに、時間内に買えると得をするというフラッシュセール感も、ライブコマースの発展に寄与していそうだ。

まえだ・ゆうじ/SHOWROOM代表取締役社長。1987年東京都生まれ。2013年5月にDeNA入社。同年11月にライブ配信事業「SHOWROOM」を立ち上げ、2015年8月にスピンオフでSHOWROOM設立。著書に『メモの魔力』(幻冬舎)等 (撮影:今井康一)

中国のライブコマース市場においては、「信頼性担保」という中国特有のカタリストがあった。そういった起爆剤はこれまで日本のコマース環境には存在してこなかった。ゆえに、この分野で少し遅れをとっている日本だがコロナがその環境を変えつつあり、SHOWROOMでも少しずつ成功事例が積み上がってきている。かねてより、市場全体で「モノ」が均質化する中では「ヒト」で差別化する戦略が非常に有効で、さらにヒトによる差別化においては、何より「血の通ったコミュニケーション」が鍵であるという言説を各所でお伝えしてきた。

いま、誰かとのつながりをより強く求めるコロナ禍にいて、「ヒトがコミュニケーションで商品に付加価値を乗せる」という購買モデルが世に果たす価値は、さらに大きくなっていくと考える。その意味で極めて原始的かつ基本的なことだが、「相手方をていねいに想像し上手にコミュニケーションがとれる素養」は、何も現実世界に限ったことではなく、仮想空間上、インターネットで影響力を持つうえで強調しても足りないほどに重要だ。実際に視聴者との対話を重んじる商品紹介者の売り上げが伸長していることを現象として観察できる。

心と身体の充足を同時に満たす

今のEC市場に流れる空気は、「より安く、より速く」という、どちらかというと価格を引き下げ利便性を追求するようなベクトルを持っていると感じる。しかしながら、値段や配送の速さなどといった「機能」的なことだけではない、「意味」を買いにいくような市場がコロナによって出現し成長すると見ている。購買時に、売り手としてあるいは作り手として、きっちり人間が介在している世界観を打ち出していくことで、一見しただけではその真の価値が見えない商品に「意味・文脈・ストーリー」という付加価値が乗り、他では代替しにくい効用を消費者に与える。

生産者の想いが込められた名産品、一点物のアートなどを想像すると、イメージしやすいかもしれない。高いか安いかという価格の問題ではなく、「あくまで自分の心が満たされるから買うのである」という購買行動がコロナを受けてこのまま広がるのであれば、流通額は伸びていく。そして近い未来に、この「意味の市場」は、無視できない規模になるだろう。

ライブコマースの売れ筋といえば、中国のライブコマース市場では美容やファッションが多いと言われるが、極端なことをいうと、日本市場では車や家などの固定資産などがライブコマースで売れる世界があっても面白いかもしれない。他にもストーリーがあるという観点でいえば、地方創生との相性も抜群に良い。希少性の高い伝統工芸品なども相性はいい。

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