SHOWROOM前田社長が放つ、「プロ」の短尺動画 視聴者はみな心の空洞を埋めようとしている

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SHOWROOMでも「SHOPROOM」のライブコマース事業を行っている。2020年11月からはヤマトグループと連携し、瀬戸内海地方の商品をSTU48が生配信で紹介・販売する取り組みをスタートした。ヤマトグループは近年、デジタルを活用した取り組みを進めるとともに、さまざまな企業と連携するなどオープン化によるイノベーションを推進している。

今回の取り組みは、SHOWROOMが持つデジタルなコミュニケーションとヤマトグループが持つ強みである全国の生産者とのリアルな接点をかけ合わせ、生産者の想いや商品の歴史をさらに深く視聴者に届ける企画だ。

STU48のメンバーが実際に生産者のもとへ訪問し、実際に製品づくりにチャレンジするPR動画も同時に展開している。生配信中に購入してくれた視聴者に対し、「ありがとう」「食べたら感想を教えてね」などの相互コミュニケーションをとるなど、単に商品を購入する以上の価値を生んだ。

これがいわゆる「意味の市場」だ。配信者とのダイレクトなコミュニケーションを楽しみながら商品を購入し、それが届いたら本当においしい。その後、SNSを通じて、商品紹介者と感想を共有するなど、会話が生まれる。単に商品の味を楽しむだけではなく、商品が同時に「コミュニティへの参加チケット」にもなっているという面白い構造。こうなると、心の充足も身体の充足も満たすことができるので、リピーターも作りやすい。

――日本でも中国のタオパオのようなライブコマースの成功者が現れますか。現在のSHOWROOMには、何があり、何が不足していますか。

日本ではECサイト・ライブ配信・物流といった、バリューチェーンがそれぞれ分断されている。われわれライブ配信業界の中でも配信技術やインフラに優位性がある。たとえば、レーテンシー(配信者と視聴者の間のタイムラグ)は0.5秒とほぼリアルタイムで、市場平均の10分の1以下のスピードを誇る。かつサーバーの帯域も厚く、同時視聴で受け入れられる人数も国内屈指だ。

配信技術を持っているわれわれとしては、いまとにかく、タッグを組めるECプラットフォームのパートナーを探している。「ライブコマース」という串で、ECサイト、ライブ配信、そして物流の三者を刺し通す。それぞれ同じ方向を見て、三位一体で歩んで行くことが、日本のライブコマース市場立ち上げに必要不可欠だと考える。

未完成品が完成品に至る過程に価値がある

――2020年10月に始めたsmash.や同年11月に始めたライバーカレッジですが、経営全体の中ではどんな位置付けにあるのですか。

この10年間を振り返ると、本来「偶像」であった存在を「身近」に近づけることで、ファンの心をつかむエンタメが興隆した。まさにAKB48がそういう存在で、本来会えないアイドルが身近に来てくれること、そのプレミアムに価値を感じて、ファンは熱量を高めていった。インターネット、もっと厳密に言えば、SNSという仕組みの持つ中毒性の1つに、「本来遠くにいる人を身近に感じられる」ということがあり、伝統のあるラジオの戦略にも本質的によく似ている。

この「偶像と身近の揺さぶり」論理における「近さ」をより細分化すると、インタラクション、更新頻度、親しみやすさの3つに分けられる。これら3つの要素をそれぞれやりきる演者はより近い存在になるし、逆にこれをやらないと、遠い孤高の存在として自らをブランディングできる。ただし、特や人気や知名度がない状態でただ自分をファンから遠ざけても、それは、単に誰にも知られていない状態で孤独にたたずんでいることになるので、そこまで意味がなく、注意が必要だ。

かつて芸能界にあこがれる一般人は芸能事務所に所属した。いまは事務所に所属しなくても、人気者になりたければ、Youtuberになったり、読者モデルになったり、ライバー(配信者)になったりして、自力で努力して夢をつかむことができる。

また昔なら、Twitterやライブ配信といった発言統制の効かない場所にタレントを解放することや、そもそも「裏側を見せていく」などと言うことは、エンタメ界の御法度で、事務所の許可が決しておりなかったと思うが、今は違う。裏側や過程を開示して、ストーリーを共有することでしかつくれない絆があると、みんなが気づき始めている。

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