『ハート・ロッカー』--次の経済成長エンジンは中東か 《宿輪純一のシネマ経済学》
『ハート・ロッカー』(The Hurt Locker)は、第82回(2010年)のアカデミー賞で、作品賞、監督賞をはじめとして、オリジナル脚本賞、編集賞、音響編集賞、音響調整賞の6部門で受賞した秀作。イラク戦争を描いた映画が不人気だったこともあり、アメリカでも当初は、日本の現状と同様に公開映画館が少なかった。
ちなみに、筆者の周りでも「Heart Rocker」という風に、“魂のロックンロール”の映画と勘違いしている人もいた(ひどすぎる)が、そうではない。Hurt Lockerとは、Hurtは「苦痛」(名詞)で、アメリカ軍の隠語で「苦痛の極限地帯」、もっと進んで「棺桶」という意味だという。確かに、まさにそのような心理的に苦痛な状況が続く。
監督のキャスリン・ビグローは女性。意外なことに、女性のアカデミー賞監督賞受賞は初めて。彼女は『ハートブルー』『K-19』など、非日常の空間における男の世界を描くのがうまい。また、『アバター』のジェームズ・キャメロンの3番目の奥さんだった。そんなことで、今年のアカデミー賞は「元夫婦対決」など話題も多かった。
2004年、イラク・バクダッドの爆弾処理班に、主人公のウィリアム・ジェームズ二等軍曹(ジェレミー・レナー)が着任し、切れたような命知らずの活躍をする。当然、仲間との友情と確執があるが、何といっても、いつ吹っ飛ぶかもしれないという、爆弾処理の緊迫感に引き込まれる。見ている側も、爆弾処理をしている感じがしてきて、主人公の息遣いまで聞こえるようである。このドキドキ感がたまらない。
しかも、政治的な色彩が驚くほど消されており、淡々と描かれている点も、その緊迫感に引き込まれていく。基本的には、戦争映画では“殺す”方向が多い中、“助ける”方向でもあり、救われる。