MIT理系エリートが育った家庭環境とは?

最良の教育は親が楽しむこと、「楽しそう」だから子は興味を持つ

親の治療方針を選ばなければならない

その日からが大変だった。僕も妹も仕事があったので、2人で手分けして、毎日、父の病院と母の病院に行った。

父のほうは順調に回復していた。一方、母はできるだけ早く手術をする必要があった。治療方針を選ぶのが、僕と妹にとっては荷の重いことだった。医者からは、大腿骨を切断して折れた部分を除去し、金属製の人工骨頭に置き換える手術を勧められた。

それが標準的な治療法だし、難しい手術でもないのだが、やはり母のことだと思うと簡単には決断できなかった。決断できたのは、医者をしている友人たちが、非常に親身にアドバイスをくれたからだった。本当に持つべきは友だと実感した。

両親は別々の病院に入院していた。父の見舞いに行くと母の心配ばかりしていて、母の見舞いに行くと父の心配ばかりしていた。彼らは使用禁止の携帯電話をこっそり使って、メールで毎日連絡を取り合っていたらしい。還暦過ぎた夫婦が「おやすみメール」を送りあっているとは、息子ながらほほえましく感じた。

母の手術の日、僕は仕事を休んで付き添った。医者に言わせれば簡単な手術だし、ほんの数時間だったのだが、母が手術室にいる時間をどれだけ長く感じたことか。ふと、僕が5歳のときに腫瘍の摘出手術を受けたときのことを思い出した。著書に書いたので詳細は割愛するが、きっと母もこうして、もっともっと長い時間、不安な気持ちで待っていたのだろう。そう思うと涙が出た。

母は無事に手術室から出てきた。執刀してくれた先生は余裕な表情で、「ちゃんと左右の足の長さを同じにしておきましたからね」と冗談を言って高らかに笑った。このときの安堵と喜びは忘れられない。

ちなみに、同じ喜びを妹の言葉で表現すると、次のようになる:

「オリジン弁当で白米を大量に買っていこう」

さて、母はリハビリでしばらく入院が必要だったが、父は数日後にめでたく退院することになり、病院に迎えに行った。母の退院まで父は独り暮らしだ。入院中、彼は「100歳まで元気に生きる秘訣」みたいな本を読んでいて、そこに「長生きの秘訣はブロッコリー」と書いてあったらしい。以下は帰宅途中の電車でのことである。

 父:「ブロッコリーはどうやってゆでるんや?」
僕:(お湯沸かしてぶち込むだけじゃ)
 父:「洗濯機の使い方を調べんとな」
僕:(使ったことないんかい)
 父:「オリジン弁当で白米を大量に買っていこう」
僕:(自分で炊けんのかい)

この日より、母の一刻も早い退院が、僕と妹の切実な願いとなった。 

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