現代にも役立つ「戦国の忍び」諜報活動の奥義 「忍者」でも「Ninja」でもない、その実像に迫る

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敵地に派遣された忍びが探り出すべき事柄は、実に多彩であった。敵の法度(法律)、軍隊の編成、合言葉、敵の大将や物頭の人相、旗幕の紋、道路、山河、村町の家々、城のしくみや規模、などである。

これらを、絵図にする必要があったわけだが、あまりにも探索すべき事項が多いので、覚えきれなかったり、忘れてしまったりすることもあった。そのため、忍びは、懐中に墨筆を携帯することが必須であり、忘備を怠らぬようにせねばならなかった。

精度の高い情報を得るためには、敵中に忍び入るだけでなく、建物などの中にも侵入しなければならないこともある。そのため、忍びは窃盗出身であることが重要でもあったらしい。

また、潜入するためには、昼夜ともに、周囲の状況や警備の様子、人混みと人影のない場所などに注意を払わねばならなかった。特に、警備が常駐している番所の様子をうかがい、その中で騒がしくしていたり、小歌を歌う声が聞こえたり、周囲に目を配るのを怠っているようならば、勤務態度が悪いばかりか、油断している証拠であり、潜入しやすい。

ただし、わざと鳴り物などを鳴らしたり、油断する擬態をなしつつ、外の音を聞き取ろうとする番人(外聞き)などが配置されている場合もあるので注意が必要とされた。

退却時の逃げ道の確保も重要な任務

このほかにも、多数の心得や任務が記されているが、夜討を実行したり、味方の手引きをしてこれを成功に導いたりすることや、戦場での案内人、退却するときの逃げ道の確保なども忍びの重要な任務であったという。

敵味方を区別するために、最も重視されたのは、その識別のための符丁である。見知らぬ者と出会ったときに、敵味方を識別するために、合詞が交わされた。これは、味方ならば全員知っているべきものであり、返答できぬ者は敵と判断された。この合詞は、覚えやすいものが選ばれ、しかも毎日変更されたという。

これに対し、夜討の際に、乱戦の中、味方を識別するために、白き出で立ちなど、夜目にもわかりやすい布などを身に着けて、味方討ちを避けようとしていたという。また、夜討終了後、安全な場所まで退避したり、約束の集合場所に到着した際に、敵が味方のふりをして紛れ込んでいないかを確認するために、合形が実施されたとされる。

この合形とは、味方ならば全員知っておかねばならない、掛け声とそれを合図に行われるべき身振りや動作のことで、これならば、紛れ込んでいた敵をたやすくあぶり出すことが可能だった。この合形を巧みに使ったのが、楠木正成であったという。

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