「O2Oのアマゾン」狙う、チケット販売の新人 「スマホ時代のぴあ」になれるか

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イベントをフックに複数領域に展開

一見、イベントのチケット販売手数料が主な収益モデルに見えるtixeeだが、松田氏はあくまで「O2Oの今までにない形のデータベースマーケティング」を掲げている。

「当社はあくまで『チケット事業』であり、『イベント事業』という打ち出し方はしていません。イベントを中心に今後は旅行やレジャー、レストランなどの分野にも参入したいと思っています」

tixeeはイベントチケットの購入や入場時の電子もぎりのツールアプリと思われがちだが、アプリをのぞくとメディアとしての機能を拡充しているように思える。


「tixee内には気になるアーティストや情報をフォローする機能があります。ユーザーは日々tixeeにアクセスすることで、アーティスト情報や最新ライブ情報に触れることができます。tixeeの媒体としての力が大きくなれば、いずれチケット販売プラットフォームとしても機能していくと考えています」

実際にライブチケットが完売するのはミスチルやサザンのような超人気アーティストのみで、全体の5%程度だという。残り95%のイベントのチケットは完売しないのだ。

筆者自身、ライブやイベントに興味があっても、それを知る日常に寄り添う便利なプラットフォームがないと感じている。気になるアーティスト名で検索して情報を得るだけで、偶然、ライブ情報を見つけて、チケットを買うというユーザー体験は今のところ身に覚えがない。そういった毎日接するようなメディアがあれば、面白いイベントやライブ情報が手軽に手に入り、生活に潤いが出てくるかもしれない。

「メディアとして集客力を増せば、ターゲティング媒体として広告収益を見込むこともできます。イベントを中心に裾野分野のチケット販売も含め、日常的に使われるメディアにしていければと。お出掛けする際に、tixeeを見て予定を考える。そんなサービスを目指しています」

【梅木雄平のスタートアップチェック (各項目を1~5で採点)】
●経営陣:4.0 海外大学出身の松田氏はいい意味で頭のねじが外れている。「世界」ではなく「地球」でいちばんのO2Oサービスを作りたいという話もあり、「世界」ではなく「地球」という表現に視座の高さを感じた。
●市場性:3.9 イベントチケット手数料市場は国内約1000億円。その市場だけでは大きいとは言えないが、旅行やレジャー市場の展開に関する言及もあり、おでかけO2Oメディアとして機能すれば、+1000億~2000億上乗せできる市場ととらえることもできる。
●利益率:3.4 チケット販売手数料モデルのため、グロス売り上げ(チケット自体の売り上げ)に対する利益率は低い。流通総額がスケールすれば、サービス運営コストは一定と想定されるため、営業利益率が上がっていく構造にあると推測する。ミスチルのツアー経由の売り上げを予測すると
チケット単価(7000円)×55万人動員の10%がtixeeで決済(5.5万人)×手数料(7%と仮置き)=2695万円
この手の事例をどう積み上げていけるか。初期は営業力もかなり必要といえる。
●競合優位性:4.1 大規模エンタメイベント領域の直接的な競合はいない。紙媒体が競合になるが、手数料率やtixee導入によるオペレーションコスト削減は紙媒体に対する競争優位性がある。旧態依然としたチケット業界がどれだけ早くtixeeのようなスマホチケットサービスに移行するかというスピードがカギであり、サービスとしての競合優位性は高いといえる。
●海外展開力:3.2 2014年5月からシンガポール、年内にタイに進出予定。現段階では読めないので、仮置き。
●総合点:3.8 イベントチケット販売にとどまらず、O2OのAmazonを目指すという視点の高さがすばらしい。エンタメO2Oメディアの決定版がないことからも、tixeeのメディア力が向上すれば、人々の生活に密着するプラットフォームになれる可能性がある。「スマホ時代のチケットぴあ」になれると踏んだ。
●予想EXIT:2018年ごろの上場
●推定時価総額:100億~150億円
●推定根拠:「なるはやでの上場」を志向する松田氏。ミスチルのツアークラスの売り上げが積み重なれば、トップラインの伸びは見える。イベントチケット手数料市場約1000億円の5%でも取れれば売り上げは50億円。構造上、営業マンなどで人件費が膨れないかぎりは、利益率が上がっていくことが想定される。法人イベントなのでリピート率が高く、営業コストは年々低減するという期待もできる。裾野市場での展開を始め、O2Oのお出掛けメディアとして機能すれば、そこそこの時価総額がつく。アップサイドに期待したい。
梅木 雄平 The Startup編集長

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うめきゆうへい

慶應義塾大学卒業後、サイバーエージェント子会社にてベンチャーキャピタル業務などに従事。複数のスタートアップ企業での事業経験を経て、2011年フリーランスとして独立後2013年に株式会社The Startupを設立。スタートアップ業界のオピニオンメディアThe Startup編集長を務める。著書に『グロースハック』がある
 

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