売れ続けるスタバが自らに課す「暗黙のルール」 彼らは「成長の病」の恐ろしさを知っている
ウォルマートのようなディスカウントストアはEDLP戦略(毎日低価格戦略)で集客する。しかしお客様はスタバにも来る。EDLP戦略だとコスト削減しか選択肢がない。しかしスタバは値下げしないので、利幅は90%以上ある。だから顧客体験に投資できる。
顧客体験を重視する企業にとっては、お客様とのつながりを創り出すチャンスは一度だけだ。スタバにとっては一杯のコーヒーがその「一度」。お客様には完璧なエスプレッソを味わってもらわなくてはならない。一度の手違いでお客様は二度と来なくなる。このように考えると、スタバはサービスビジネスなのだ。
かつてスタバは「お客様感謝デー」で20%オフを行ったことがある。記録的売り上げを達成したが、トラブルも多かった。まずお客様が「スタバは値下げすることがある」と認識した。値下げ前の数週間は売り上げが激減。当日は商品供給が追いつかず大混乱。店に翌日の商品を置けず、機会損失も多く発生。なによりも、完璧な一杯のコーヒーでお客様に満足を届けられなくなった。そこでスタバは二度と値下げをしなくなった。
低価格は、名案を考え出せないマーケティング担当者の常套手段だ。使ってはダメだ。
真実を語るのがマーケティング
スタバにはマーケティング・プログラム実施の際に、6つの暗黙のルールがある。
客は最初戸惑っても、一度注文すればスタバの一員になった気持ちになる。この「あえて不親切にする」のは、本連載2回目「高級寿司屋の大将が怖くても許される納得理由」と相通じる点だ。
本書によれば、スタバは「最大のコーヒー企業になることに重きを置いたことはない」という。「最高になれば、最大になる」と信じ、最高のコーヒー企業を目標にしてきた。最高でなく最大になろうとすると、企業のミッションを見失ってしまうのだ。
しかし皮肉なことに本書出版の2年後、スタバは成長の病にかかってしまった。「最大のコーヒー企業になろう」とした結果、業績が低迷してしまったのである。この時の低迷した状況と復活の経緯は、スタバ創業者ハワード・シュルツが執筆した『スターバックス再生物語』で詳しく紹介されている。たとえ熟知していても、あのスタバですら患ってしまう「成長の病」は実に恐ろしいものだ。
スタバから学べることは、誠実に顧客に接し続けた積み重ねが、強いブランドを創るということ。そして反面教師としての「成長の病」の恐ろしさだ。今やすっかり身近になったスタバから私たちが学べることは、実に多いのである。
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