売れ続けるスタバが自らに課す「暗黙のルール」 彼らは「成長の病」の恐ろしさを知っている

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スタバはコーヒー豆の品質や深煎り焙煎を追求し、「スペシャリティコーヒー」でコーヒーを楽しむ体験をつくった。「どこにでもあるコモディティ化したもの」が「他にはないもの」になれば、顧客の心の中にブランド・ロイヤルティが生まれて、顧客は離れなくなる。

そもそも顧客は、新しいブランドには全く興味はない。顧客が興味あるのは、新しいカテゴリー(商品分野)だ。スタバが大きく成長した1980~1990年代、「スペシャリティコーヒー」はまさに新しいカテゴリーだった。スペシャリティコーヒーは広く認知され、その結果、「スタバ」というブランドが普及した。

スタバは「スペシャリティコーヒー」という新しいカテゴリーを理解してもらうため、それまでのコーヒーと、スペシャルティコーヒーの違いを説明した。決定的な違いはコーヒー豆だった。スペシャリティコーヒーは高品質でコストも高いアラビカ種のみを使用していた。一口飲めば違いはすぐわかる。

新規事業でも訴求すべきは、企業の新ブランドの前に、新カテゴリーなのである。

ブランド・マネジメントは「評判管理」だ

まわりの人をイメージしてみてほしい。評判がいい人は誠実で信頼でき、尊敬されることすらある。逆に評判が悪い人は、イマイチ信用できない。ブランドもこれと同じなのだ。

強いブランドは、評判がいい人と同じように誠実なイメージだ。このいい評判は、約束したことを実行し続けることでしかつくられない。

スタバは「ブランド・マネジメント=評判管理」と考えている。スタバは意図的なブランドづくりをしなかった。スタバは美味しいコーヒーへの理解を得るために情熱をもってひたすら取り組み続けることで、強いブランドを生み出したのだ。

財務のバランスシート(貸借対照表)で「資産」と「負債」があるように、スタバはブランドのバランスシートにも「ブランド資産」と「ブランド負債」があると考えている。そしてスタバはある活動を行うべきか否かを判断する際に、その活動がブランド資産かブランド負債かをチェックする。

図の4つのチェック項目で、「○」が3つ以上ならブランド資産でスタバに相応しい活動、「×」が2つ以上ならブランド負債で相応しくない活動だ。

イタリアのバイクメーカー「ベスパUSA」と懸賞キャンペーンを企画したときを例に挙げると……

① お客様はイタリアのイメージを想起し、イタリアのカフェ文化とも関連がある→○
② 第三者のベスパが商品を渡す。スタバも法的義務を遵守する責任を負う→○
③ スタバのバリスタにキャンペーンを話すと手応えのある反応だった→○
④ お客様の反応は、正直わからない→×

 

○3つ、×1つなので、実施した。結果は大成功。豪華賞品にお客様は驚き、販売量も増えた。スタバのブランドは、このような活動をひたすら愚直に積み重ねて、強いブランドへと育っていった。

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