横浜のタクシー「観光客減も意外に稼げる」秘密 流転タクシー第10回、コロナ禍の横浜の実情

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茅ヶ崎市で生まれ育った中田さん(40代・仮名)は、紙媒体の不況のあおりを受け、マスコミ業界から5年前にタクシー業界へと転職した。主な営業エリアは港北部で、西区、中央区、神奈川区などの主要部はあえて外す営業スタイルを貫いている。

「絶対数は東京に劣るでしょうが、横浜も近い水準で利用者の数は多いですよ。ただ、大多数のドライバーは横浜駅周辺や関内駅、みなとみらい駅の周辺やホテルでの付け待ち、無線を狙った営業スタイルの人も多い。それでもある程度稼げるでしょうが、万収(1万円以上の顧客)の方は狙いにくい。

そこで私が狙いをつけたのは、東急東横線沿線を居住区とする人たちでした。東京への延長線上ともとれるこの沿線は、東京への通勤前提として住んでいる人も多く、ロングが期待できるエリアです。そんな中でも、大倉山~元住吉は狙い目。菊名や武蔵小杉という大きな駅ではなく、綱島や日吉駅周辺を重点的にやっています」

綱島の朝から昼間の時間帯が熱い

話を聞いたドライバー3人に共通するのは、都内への移動回数が増えた、郊外の住宅街エリアからのロング客がコロナ前より増えた、という点だ。

「特に熱いのが綱島の朝から昼間の時間。東横線沿線は比較的所得が高いこともあり、2日に1度は都内中心部までのお客様を拾えています。ただ、最近同じことを考えるドライバーが増えたのか、駅周辺の付け待ちは、時間帯によって追い出されるようになったのがネックですが」(中田さん)

中田さんが転職先としてタクシー業界を選んだ理由は、もう一つある。それは趣味である車のレースや地元行事での集まりに積極的に参加するためだ。隔日の月12勤務体系もあり、前職よりもプライベートの時間は大幅に増えた。地域の祭りでの委員も務める中田さんは、茅ヶ崎を地元とする大物政治家の発言に同郷だからこそ厳しい意見を送る。

「河野太郎・規制改革相は茅ヶ崎のイベントに参加してくれたり、厳しい今だからこそ街の商店街や飲食店でお金を落としてくれてたりしている。まさに地元の星で、将来首相になる方でしょう。私も街で何度か話す機会がありましたが、非常に聡明な印象を受けました。

ただ、11月末に報道された、タクシー自由化を臭わす発言だけは賛同できません。小泉純一郎さんも安倍晋三さんも、緩和や自由化に動きましたが、結果だけみると大失敗。仙台なんかは地域ごとの台数制限が緩和された影響で、超供給過多となり業界全体が著しい業績悪化に追い込まれた。ライドシェアを日本で浸透させるのは文化的に難しいでしょうし、もう少し歴史や業界を勉強なさってから発言された方が良かったと思いますね」

横浜市のタクシー業界では、コロナ禍でかなり厳重な台数制限や勤務日数減を行う企業も目立ち、その傾向は現在も続いている。当初は賛否もあった。だが結果として不毛な競争や供給過多に歯止めをかけ、適正化に近づいた数少ない大都市圏と呼んでも大げさではない。

栗田 シメイ ノンフィクションライター

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くりた しめい / Shimei Kurita

1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。『Number』『Sportiva』といった総合スポーツ誌、野球、サッカーなど専門誌のほか、各週刊誌、ビジネス誌を中心に寄稿。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。南米・欧州・アジア・中東など世界30カ国以上で取材を重ねている。連絡はkurioka0829@gmail.comまで。

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