独立直後にがん、笠井アナ支えた「逆転の発想」 東日本大震災で得た経験が闘病に役立った

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「私は東日本大震災の時に得た経験を今、強く感じています。それは『引き算の縁と足し算の縁』という自分なりの考え方です。東日本大震災で当初、被災者の皆さんは、『あの人が亡くなった、この人が行方不明になった』と失った縁のことを引き算のようにして数えていました。

でもある時から『避難所であの人に会えた。病院でこんな先生と、ボランティアの方と知り合えた』といった足し算の縁を語る人が増えてきて、そうした人から復興の中心人物になっていったんです。

そのスイッチの切り替えというものはとても大事で、実は僕は、がんとわかって『あの仕事なくなった。この仕事もなくなった』と山のような仕事のキャンセル、引き算ばかり考えていたんです。でもこれからは、新たな出会いがいくつもあるはずなんです。

病院、あるいはオンライン上の皆さんとの出会いといったものなどを大切にして、『この病気になったので、こうなれたんだ』と言う自分に気持ちを切り替えて生きていこう、闘ってこうと思っています。これは東日本大震災で被災した皆さんから学んだことです」

言えた! この日、唯一これだけは必ず言おうと決めていたことが、この「引き算の縁と足し算の縁」の話。今ご紹介したこのくだりだけは、実は事前に練習していました。がんになった私を支える精神的支柱と言っていいかもしれません。

「巻いてください!」の指示は一言もなかった

健康な時には講演会などでこの話を、「被災者の皆さんの強さ」、「困難に立ち向かってゆく時の生きるヒント」としてお話ししていました。

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しかし、自分が生きるか死ぬかの病気となってしまった時に「まさにこれこそが自分が必要としていることなんだな」と。最悪の状況の中で自分にプラスとなっていくものを見つけ出して貯金していく。その姿勢をスタジオで話しながら、自分にも言い聞かせていました。

こうして私の生放送は、予定時間を10分以上オーバーして、32分間も放送してもらいました。

「巻いてください!」

この20年間、スタジオでこの指示を受けない日はありませんでした。しかし、10分も押しているのに、「巻いて」「急いで」「まとめて」そういった指示はこの日、私に一言もありません。

「とくダネ!」のスタッフの深い深い愛情を感じました。なんて素敵な仲間たちと私は仕事をさせてもらっていたのだろうと、この日、心の底から思いました。

笠井 信輔 フリーアナウンサー

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かさい しんすけ / Shinsuke Kasai

1963年、東京都生まれ。早稲田大学を卒業後、フジテレビ入社。アナウンサーとして、「とくダネ!」など、おもに情報番組で活躍。2019年10月、フリーアナウンサーに転身。直後、ステージ4の悪性リンパ腫であることが発覚。12月より入院、治療を始める。ブログで闘病の様子をつづり、ステイホームの呼びかけも行った。2020年6月に完全寛解し、7月から仕事に復帰した。著書に『増補版 僕はしゃべるためにここ(被災地)へ来た』(新潮文庫)。

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