社会の「分断と対立」がここまで加速している訳 オンラインライフの想像を上回る弊害の正体

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オンラインライフの想像を上回る弊害の正体は、1人ひとりの現実の生活圏を取り巻く今ここの出来事などよりも、「地球の裏側で起こったテロ」「隣国との外交関係の悪化」「極端なヘイトグループの言説」といった物事のほうが、より激しく「自分の心をかき乱す対象」として感じられてしまうことなのです。つまり、この感情の動員に基づく遠近法の崩壊によって様々な社会問題についての重要性を推し量る「優先順位のカオス(混沌)」がもたらされる可能性が高まるのです。

新興2党へのバッシングに引き寄せてみると、アテンション・エコノミー(関心経済)が支配するソーシャルメディアにおいて、海外で起こった自然災害や芸能人のスキャンダルといったあらゆる話題と同一平面上に並べられ、「生活圏における脅威」=実際的な脅威があるかどうかよりも、「情報化された脅威」=感情的にダメージのある出来事が過大評価されるのです。少し引いた視点でみれば、現在権力を握っている与党による「消費増税」や「緊急事態条項の創設」などのほうが、明らかに直接生活に影響を及ぼす問題ですが視野に入らなくなるのです。

「皆にとって正しい優先順位」は存在しない

けれども、もはや「皆にとって正しい優先順位」などというものは存在しません。前出のバートレットが言うように、「誰もが虐げられたり、激高したり、あるいは抑圧されたり、脅かされたりしていると感じて当然の理由を山ほど抱え込んでいる」からです。

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その肝心の中身は個人ごとに驚くほど異なってはいますが、ネット上で重大事として可視化され、感情的に共有されることで神聖不可侵なものとして肯定されうるからです。ソーシャルメディア上では、社会問題や権力そのものではなく、「自分の感情を逆なでする何か忌々しい存在」、それが最も重大なイシュー(争点)になります。

このような世界に投げ込まれているわたしたちは、「再部族化」「感情の動員」「遠近法の崩壊」「優先順位のカオス」が多かれ少なかれ避けられない身の上であることを重々承知しながら、ネット空間とデジタルデバイスの心理的な引力から上手く距離を取るバランス感覚が必要なようです。

わたしたちがネットを生息地の一部にしている以上、難易度の高い「綱渡り」が常に求められていることを忘れてはいけません。

真鍋 厚 評論家、著述家

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まなべ・あつし / Atsushi Manabe

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。 単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。(写真撮影:長谷部ナオキチ)

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