社会の「分断と対立」がここまで加速している訳 オンラインライフの想像を上回る弊害の正体

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コンピューター科学者のジャロン・ラニアーは、ソーシャルメディアのビジネスモデルについて、「人々が苛立ち、妄想に取り憑かれ、分断され、怒っているときにより多くの金を生む」システムであると看破しました(ジャロン・ラニアー『今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除すべき10の理由』大沢章子訳、亜紀書房)。「エンゲージメント」(結びつき)という言葉は、まさにその核心を指すものです。

ある投稿や記事に対する「いいね!」「シェア」が増大することは、ネットビジネス業界では「エンゲージメントが高まる」という言い方で表現されることが多いのですが、そこでは「バズること」も「炎上すること」も等価な現象となってしまうのです。

「周到に計算され、演出された過激さ」

N国党とその支持者の怒りと、それに対する過剰反応としての怒り。これらがネット炎上の起爆剤となってソーシャルメディアの口コミを促進して、いわゆる感情を煽るために「周到に計算され、演出された過激さ」が、顧客獲得を達成する「バイラル(拡散)・マーケティング」と同様の機能を果たしてしまうのです。

他の何にも増して注目されることを至上命令とする経済原理のことをアテンション・エコノミー(関心経済)と言いますが、短時間で多くの関心を集めることができて広告主とプラットフォーマーとインフルエンサーが潤えば良いとする、公共性というものから何光年も隔たった反社会的な側面を持っていることに警戒が必要です。

このまま再部族化行為が氾濫し続け、アテンション・エコノミー(関心経済)がもてはやされ続けると、先ほどのN国党への懸念が「実際上の脅威」よりも遥かに大きなものとして受け取る態度の先鋭化といえる、脅威の対象そのものについての「遠近法の崩壊」が起こる恐れがあります。これは強烈な感情を伴うアテンション(関心)が、意図的に特定の方向へと誘導される事態を意味します。

あなたがアフリカのサバンナにいるとしましょう。大きな川の向こうにライオンの群れがいます。あなたはライオンの群れに脅威を感じて、遠くの景色にばかり気を取られてしまいます。本当の脅威は足下を這っている毒蛇であったりするのですが、それにはまったく気付かず、「川を渡って来ることはないライオン」のほうに恐怖をおぼえるような心理状態です。

あなたが会社員であれば、「仕事での大きな失敗」や「家族との関係悪化」は、わが身に差し迫った「実際上の脅威」と言えます。しかし、こうした物理的に距離が近い現実よりも、「ソーシャルメディア上での不愉快なリプライ」や「会ったこともない外国人の意見」のような「情報空間における脅威」の方が「自分ごと」であると感じられ、激しく感情的な反応をしてしまうことです。このような感受性に身に覚えがある人も多いかもしれません。

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