社会の「分断と対立」がここまで加速している訳 オンラインライフの想像を上回る弊害の正体

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たしかに、現在ほど被害者意識を持ちやすい時代はないでしょう。経済格差はどんどん進み、物事はすべて個人に還元され、情報は奔流となって押し寄せます。ちょっとネットの大海に漕ぎ出してみれば、「男性」「女性」「若者」「主婦」「外国人」「LGBTQ」などの乱雑なカテゴリー分けによって、自分が属する性別や年齢層、社会的地位、人種的ルーツ、性的指向などが、常時誤解や偏見や特殊な事例に基づいて攻撃の対象にされ、加害者よりも被害者としてのアイデンティティを意識することが多くなってきているからです。これはいわば「地位をめぐる闘争」なのです。

自己の正当性を声高に主張しようとすれば、まず自分がいかに不当な境遇に置かれ、差別され、人権を侵害されているかを訴え、その負債の弁償を社会全体に、他者という他者に突き付けることが手っ取り早いのです。しかも、それによって「負の共感」が沸き立つように形成され、画面の向こう側にいる誰かとつながりやすくなるのです。これが国内外を問わず政治運動をはじめとするあらゆる領域に浸透してきているのです。

既得権益層の強権・強欲に対する憤り

例えば、N国党は、NHKに象徴される既得権益層の強権・強欲に対する憤りが共有され、「持たざる者」同士がネット上でスクラムを組む中心的な役割を果たすと同時に、党首の立花孝志氏と支持者・視聴者がともにNHKやマスコミに立ち向かう「参加型ドキュメンタリー」の様相を呈しています。

既得権益層には、記者クラブに加盟しているNHK以外のマスメディアも含まれています。これらのオールドメディアとネットメディアの非対称性そのものが、「部族としてふたたび結束する」活路を切り開いた格好といえます。N国党を軸に「NHKをぶっ壊す」コミュニティが、バートレットのいう「再部族化行為」によって構築され、この戦線で闘うことがアイデンティティを活性化する拠り所となり、自分らしく振る舞うことができる居場所になるのです。

他方、N国党への批判を強める〝アンチ〟の人々も「再部族化行為」のメカニズムから逃れることはできません。彼らが「ゴロツキ集団」「カルト集団」と呼ぶN国党が政界進出を遂げたことへの強い反発が動機となり、ネットにおける同胞意識の醸成を通じて結集している点では、N国党の支持者と似たり寄ったりだからです。しかも、N国党に対する懸念が「実際上の脅威」よりも遥かに大きなものとして見積もられてしまっていることが重要なポイントです。炎上商法による「感情の動員」に無自覚なのです。

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