佐々木隆之 西日本旅客鉄道(JR西日本)社長--当社と世の中の倫理観に大きなギャップがあった
あのJR福知山線列車脱線事故の大惨事から5年。昨年には遺族らの傷が癒えない中で、JR西日本の山崎正夫社長(当時)が事故調査報告書を入手、内容修正を要請するなど前代未聞のコンプライアンス問題が発覚した。長年にわたり沈殿された倫理欠如の澱(おり)を一掃する抜本改革が成し遂げられるのか--。佐々木隆之社長に聞いた。(インタビューは3月上旬に行われました)
--昨年発覚したコンプライアンス問題が起こってしまった社内体質を、どうご覧になっていますか。
事故調査委員会の中でどういう議論が行われているのか関心がありましたけれども、越えてはいけない一線を明らかに越えてしまいました。このようなことが起こってしまった背景には、世の中の常識と当社の常識、世の中の倫理観と当社の倫理観、その間に大変大きなギャップがあったということです。
私どもの会社が、自らの行動に対して厳しく問い直しながら行動していく企業倫理観の取り組みに、甘さがあったことも問題の一つです。それから、自分中心主義、自社中心主義的な考え方があったように思います。
今回のコンプライアンスの問題もそうですが、それと併せて、ご遺族様との対応の中でも反省すべき点が多々ありました。われわれの側に、100%の加害者であるという認識が、口では言っていましたが、どこまで本心からのものであったか、また、事故調査委員会との関係でいけば、調べられる側と調べる側、そこにきちっとした一線がなされていなかったことが、背景にあると思います。
--山崎前社長が犯した事故調査委員会への働きかけは、当時の社内からすると、ある意味よかれと思ってやったとの認識があったと。
山崎はひょっとしたら「会社のため」と思ってやったかもしれませんが、会社のためであるならばルールを破ってもいいということはありません。会社のためという言葉は、すべてを許してしまうとか、認めてしまうという言葉ではない。やはり守るべき一線というのは厳に存在するわけで、そこがいちばん大きな問題だったと思います。