合計1250人逮捕した「名物刑事」の悔いなき人生

横浜のドヤ街・寿町で彼は今も生きている

「飲み屋で夜明かししたり、路上で寝たりしていたんですよ。朝の4時から5時ぐらいに手配師が来るんですが、その時間帯はもう寿町の道という道に人があふれて通勤ラッシュの駅の構内みたいになる。夕方は夕方で仕事から帰ってきた人でごった返して、また通勤ラッシュのような騒ぎです。当時は2部通し(交替番の仕事を連続でやる)で働けば、1日で4万ぐらい貰えました。それを全部酒と賭け事で使っちゃうんだから、そりゃあにぎやかなもんでしたよ」

西村によれば、当時の寿町には4つの顔があった。第1の顔はワゴン車と手配師が現れ、職安がシャッターを開ける朝の顔。第2の顔は仕事にアブレた人たちが酒を飲み、路上でサイコロ賭博に興じる昼の顔。第3の顔は、仕事から帰った人たちがメシを食い酒を飲んで大騒ぎをする夜の顔。では、第4の顔とは、いったいどんな顔なのか。

「日雇いの人たちが寝静まるのが午前1時ごろ。泥棒やシャブの売人みたいな悪い連中は、その後の2時か3時ごろになってようやく姿を現すんです」

さしずめ、寿町の裏の顔といったところだろうか。

食べ物と寿町のひとびと

寿町の交番勤務についてから最初の3カ月間、西村は町の臭気に慣れることができず、ろくに食事も喉を通らない日々を送った。だが、3月を過ぎた頃から、徐々にこの町に魅力を感じるようになっていったという。

「実は、食べ物がおいしかったんですよ。焼き肉屋とかホルモン屋もありましたが、当時は和食の定食屋がたくさんあって、どの店もものすごくおいしいんです」

多くの店がカウンターに大皿を置いて客が自由におかずを取れるスタイルだったが、そこは労働者の町である、塩分控えめやカロリー控えめの正反対で、しっかりと味のついた煮つけや揚げ物が主流だった。

「よく交番に出前をしてもらいましたけれど、寿町の外の店とは比べものにならないぐらいうまかったですね」

もうひとつ、西村を引きつけたものがある。まさに本書のタイトルそのものの、寿町のひとびとである。

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