合計1250人逮捕した「名物刑事」の悔いなき人生 横浜のドヤ街・寿町で彼は今も生きている

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「原因は上の人間と反りが合わなかったからなんですが、刑事がいちばん偉いんだと思い上がっていた私に、神様がもう一度勉強をさせてくれたのかもしれません」

西村がすっかり意気消沈していると、意外な人物が交番を訪ねてきた。暴動を収めてくれた、あのヤクザの親分である。

どういう事情があったのかわからないが、親分はヤクザ稼業からすっかり足を洗って堅気になっていた。そして、ふたりともすっかり年をとっていた。

「ダンナが交番にいるって噂を聞いたんで、どうしたのかと思ってね」
「いや、上と合わないとこうなっちまうんだよ」
「組織ってのは、ヤクザの世界も同じことでね、けんかだなんだのときは使われるけど、アイツは要らないとなったら、いいようにされちまうんですよ」

それだけ言うと、元親分はやはりあのときと同じように、静かに交番を離れていった。

「ただのヤクザじゃなかった」

西村が言う。

『寿町のひとびと』(朝日新聞出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

「元親分には子どもがいるらしいんで、もしも彼に万一のことがあったら、私、こう伝えたいと思っているんです。あんたのお父さんはね、ヤクザはヤクザだったけれど、ただのヤクザじゃなかった。窮地にいる人間に手を差し伸べる心を持ったヤクザだったって……」

その後西村は、ある幹部の計らいで県警本部の分析課に異動になり、退職までの3年間、若い警察官たちに犯罪捜査のノウハウを引き継ぐ仕事に従事した。現在は、寿町にある某施設で警備の責任者を務めている。

刑事人生に、悔いはないという。

山田 清機 ノンフィクション作家

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やまだ せいき

1963年富山県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』『東京湾岸畸人伝』(いずれも朝日新聞出版)がある。

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