合計1250人逮捕した「名物刑事」の悔いなき人生 横浜のドヤ街・寿町で彼は今も生きている

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・一係 殺人、強盗、傷害、暴行などの強行犯
・二係 選挙違反、贈収賄、詐欺などの知能犯
・三係 窃盗犯
・四係 暴力団
(注・現在の一般的な呼称は「捜査○課」。また、四係は一般的に「組織犯罪対策課」と改称されている)

寿町のひとびとの9割9分は善良な人たちだったと前置きしたうえで、西村は当時の心境をこう語る。

「刑事課に配属されてみると、寿町は別な意味でとても魅力的な町だったのです。魚の少ない川に竿を出すより、魚がたくさんいる釣り堀で竿を出したほうが効率がいいでしょう。当時の寿町は、たった300メートル四方の中で一係から四係まで、すべての仕事ができたんですよ」

わずか0.6ヘクタールの中に5000室を超える部屋があり、しかも部屋数の3倍もの人間が蝟集(いしゅう)していた当時の寿町は、犯罪者が身を隠すのに格好の場所であり、同時に、刑事にとっては“効率のいい釣り堀”にほかならなかったのだ。

張り込み

晴れて刑事になった西村は、まず、寿町の中に協力者を確保することから仕事をスタートさせた。

寿町には警察が苦手な人も少なくなく、路上で人が刺されるような事件が起きても、「さぁ、見てませんね」という反応が多かった。そんな環境で協力者を作るために、西村は一計を案じた。休日返上で、早朝から深夜まで寿町に張りついたのである。

1日中、覆面パトカーの中から寿町を観察していると、怪しい動きをする人物が浮かび上がってくる。ある日、その人物に近づいてこう耳打ちする。

「この前の夜、×××××に会っていただろう」

「ダンナ、何でそんなこと知ってるんですか」

「俺は細かいことは言わないけれど、何かあったら頼むよ」

まさに、刑事ドラマのワンシーンである。

後に西村は県警本部の機動捜査隊(初動捜査専門の刑事集団)に異動になるのだが、ここでは反対に、刑事ドラマには決して出てこない、地味な作業を毎日欠かさず行った。

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