「クビ寸前」から逆転した僕が学んだ信頼の本質 「また会いたくなる人」だけが持つ決定的視点
その結果、聞き手のニーズを見失い、「化学は楽しいよ」「私は授業で宿題もしっかり出す真面目な講師だよ」と話し手の価値観を押しつけていました。でも、話す内容を決めるとき、最も重要なのは聞き手のニーズに興味・関心を持ち、目を向けることなのです。
これはビジネスシーンにも当てはまります。自社で開発した製品やサービスに対しては、どうしても思い入れが強くなってしまうものです。
すると、その製品やサービスを売るときには「この製品はすばらしいんです」「このサービスを超えるものはありません」と話し手の価値観が先行し、聞き手を置いてきぼりにしてしまうことがあります。
聞き手の話を聞く目的をおろそかにして、話し手の価値観を押しつけてしまうと、「この人はわかってくれない」という第一印象が形成されます。すると、次回以降、同じ話し手がどれだけ挽回しようと頑張っても、その言葉は相手の心に届かずに空回りしてしまうのです。
相手との信頼関係を築く土台のつくり方
受験生は人生のキャリアの一歩を踏み出すため、予備校の教室に足を運び、講師の前に座ってくれています。彼らのニーズは、志望する大学に合格するための力を手に入れることであり、その助けとなる講義をしてくれる講師に出会うことです。
生徒との信頼を結ぶのが上手な講師は、そのニーズをよく理解していました。ですから、初回の講義のときにはっきりとしたメッセージを発していたのですの
教える教科にかかわらず、彼らが生徒に伝えていたのは、3点です。
・ 過去の入試の出題傾向を分析して、受験に役立つ内容を確実に伝えていくこと
・ 講師である自分もかつては受験生で、不安や苛立ちの多い1年を共に歩むパートナーであること
この3つを伝えることで講義を受ける生徒たちの講師に対する第一印象は、「この人はわかってくれている」に変わります。信頼関係を築く土台ができるわけです。
そして、より生徒からの信頼の厚い講師はこの3つにプラスして、講義の前後の振る舞いに特徴がありました。
それは生徒からの質問に対して懇切丁寧に答える姿勢です。講義の後の教室や講師室で質問にくる生徒はある程度、勇気を振り絞って講師に話しかけにきます。その気持ちをしっかりと受け止めて、1つ1つの質問に真摯に答えていくのです。
基本的に予備校講師の報酬は授業のコマ単位で計算されるので、質問に対応する時間をボランティアと捉える講師もいます。しかし、信頼関係を築くのが上手な講師は、質問に答える1対1でのやりとりを通して、「生徒の今」をじっくり観察します。
授業のどんなところで疑問を持つのか。勉強をするうえで抱えている悩みの種類は変化しているのか。つまずくポイントは今も昔も変わらないのか。変わっているのなら、どういう違いが生じているのか。
単なる質問への対応だけで済ませるのではなく、懇切丁寧なやりとりを通して聞き手のニーズを探っていきます。この努力をしていないと、どんなベテラン講師でも生徒との間にある感覚のギャップが広がってしまい、信頼関係の土台も崩れてしまうのです。
「どんな話し方をすると、良好な人間関係ができ、その関係を続けられるのかな……」と悩む、1人でも多くの方に届くことを願っています。
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