「脱資本主義」の次に人類が向かうのはどこか 環境破壊時代に希望としてのマルクスを問う

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宇沢先生の言うように「専門家」にすべて委ねるのではなく、市民たちが自発的・主体的に参加する領域を増やすべきです。こうした民主的なコモンの管理方法は、効率至上主義とはなりません。ですが、そのように経済が減速することは、かえって脱成長につながります。これが私の考える「脱成長コミュニズム」です。

──これまでの共産主義的、社会主義的な労働運動とも一線を画すものですね。

コモンの領域を医療や教育、保険、水道など、いろんなところへ広げていく。現在いうシェアリングエコノミーに近い。インフラなどのプラットフォームの独占を弱めて民主的なものにしながら、最終的には、私的所有・商品経済からコモン型のシェアの経済に転換していくというものです。

「下からの社会運動」の重要性

──この考えはアナーキズム(無政府主義)とも違いますね。

11月に住民投票が実施された「大阪都構想」のような上からの改革、あるいは規制緩和というトップダウン型の議論が日本では多い。「政治で日本を変えるんだ」はいいんですが、意見の相違があらわになって社会の分断も生むし、政治の独裁も生みかねません。

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私はそのアンチテーゼとして下からの社会運動の重要性を強調しています。もちろんトップダウンも時に必要です。政治が動かないとできないことはたくさんある。しかし市民の声を聞いて政治家や企業に動いてもらうには、社会運動の力がもっと強くなるべきです。

──コモンを動かす「コミュニズム」は、あくまでもシステムであって、属人的なものではないということですね。

そうです。市民たちが強く動き出せば、既存のシステムや政治も変わってくると思います。

とくに、ミレニアル世代やグレタさんのようなZ世代の不安や危機感に対して、われわれ大人は十分に応えていません。気候変動や環境危機の真の解決策とは何か。資本主義のままで「人新世」という危機の時代を切り抜けられるのか。こうした深刻な問題を根本から考えるためのフレームを提供すべきではないか。その1つとして、晩期マルクスの思想が十分ヒントになることを伝えたいのです。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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