「脱資本主義」の次に人類が向かうのはどこか 環境破壊時代に希望としてのマルクスを問う

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ところが、10年経っても日本では原発問題や環境問題への関心が低い。気候変動対策も、被害はすでに出ているのに、非常に遅れています。こうした問題をわかりやすく伝えたいというのが本書を執筆した動機の1つですが、解決の具体的な方向性についても、後期マルクスの思想から導き出すことができました。それが、無限の成長を追求する資本主義の外に出ないといけないというものです。

──脱資本主義的な社会の構築のために、「コモン」という言葉を紹介されています。

コモンとは、人々が生きていくのに必要な共有財産のこと。水や医療が代表例です。資本主義はありとあらゆるものを商品化し価格をつける。生きていくうえで必要なものも、お金がないとアクセス不可能になってしまう。しかし資本主義以前には、土地や森林、川といった農業に必要なもの、つまりコモンは共有財として集団で管理されてきたのです。そのコモンが解体され、資本によって独占されたことで、貧富の差が生じたのです。

「地球そのものがコモン」という考え方

──資本主義で進んだ商品化をやめ、再びコモンにしようというのがマルクス晩年の思想ということですね。

マルクスは究極的には「地球そのものがコモンだ」と言っています。土地や森林、あるいは電力も、本来は誰かのものではない。私有化して独占するから、希少性が生まれ、困窮する人々が出てくる。これが資本主義ですが、それをやめてコモンとしてシェアすれば、99%の私たちは豊かになる。それが、旧ソ連の共産主義とは異なる、コモン主義としての新しいコミュニズムです。

──自然環境やインフラ、医療、教育などを「コモンズ=社会的共通資本」とし、その構築を主張した、経済学者の故・宇沢弘文氏の思想を想起します。

宇沢先生の社会的共通資本には、専門家が管理していくというイメージがありますが、私は、市民たちがもっと自発的に、水平的に管理していく余地を広げたほうがいいと考えています。

例えば、すでに存在する市民電力では、市民が実際に投資して太陽光パネルを設置し、自分たちで管理する。その過程では技術面などの専門家から意見や助言などを当然受けています。つまり、つねに情報共有を強めながら、みんなで意思決定していくのです。政治家も官僚や識者からの意見を聞きながら判断を下していますよね。

次ページ市民が強く動き出せば、既存システムや政治も変わる
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