アメリカの政権交代は現実の政策を変えるのか 対中戦略、自国主義、医療制度改革はどうなる

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人種的寛容性については、ハリス氏が副大統領候補に選ばれたこと自体が、明らかに大きな理念の転換を示しています。

副大統領が女性で非白人。巨大ハイテク産業の企業のトップは、グーグルもマイクロソフトもIBMもインド人です。アメリカの強さの源泉であった人種的寛容性は健在です。

多様性に重きを置くという意味で、アメリカの伝統的価値へ回帰することになります。

それが中国との最大の違いです。人種的に非寛容な中国は、覇権国にはなれません。

こうした考えが、H1Bビザ(高度専門家の就労ビザ)緩和などの政策に繋がれば、アメリカの新技術開発と長期的経済発展に大きく貢献するでしょう。

現実の政策を考えれば大きな制約

ただし、公的医療保険などの問題で、現実の政策にどの程度反映できるかを考えると、大きな制約があると言わざるをえません。

トランプ政権は、オバマケア(個人に保険の加入を義務付ける一方で、低所得者に補助金を出して保険に入りやすくする医療保険制度改革法)の撤廃を目指してきました。

アメリカで新型コロナ感染が拡大した大きな原因は、公的な医療制度が十分でなく、医療費が高すぎることです。このため、低所得者は、感染しても病院に行かない場合が多いのです。

バイデン氏もハリス氏も、公的保険制度の拡充をめざすとしています。

では、「オバマケア」は復活するでしょうか? これは決して容易なことではありません。

連邦最高裁は11月10日、オバマケアの合憲性を問う審理を開きました。最高裁の判事が保守派6人、リベラル派3人と保守に偏っていることを考えると、最高裁がオバマケアを違憲判断する可能性があります。

民主党と共和党の勢力が伯仲する中での議会運営は、極めて困難なものとなるでしょう。共和党が上院で主導権を握れば、医療保険への補助金支出というバイデン氏の公約実現は難しくなります。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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