メルセデスに学んだ「ヘルメットなし」の新体験 自分なりのルールを厳格に守ってテストに臨む
僕は、妙に弾んだ気持ちで190に乗り込んだ。
それまで馴染んできた「ヘルメットを被っての走行感覚」とはかなり異なるものを感じた。五感感覚がより鋭敏になったというか、繊細になったというか、、そんな感じだった。フロントがマクファーソン・ストラット、リアがマルチリンク式のサスペンションは新設計。操安性と乗り心地を、文字通り高いレベルで両立させていた。
コンパクトで、軽量で、優れたサスペンションを与えられた190は、ホッケンハイム・リンクを軽快にしなやかに走った。楽しかった。ちなみに、初期市販モデルは、リア・マルチリンクのジオメトリーのバラツキが問題になったが、1年ほどで解決されたと記憶している。
評価領域の幅を拡げてくれた
ヘルメットなしでのサーキット走行という新たな体験は新鮮だったし、評価領域の幅を大きく拡げてもくれた。
そして、それ以降、「一般的な市販モデルのテストではヘルメットを被らない」ことが僕のルールになった。このルールは、日本のメーカーにはなかなか受け容れられなかったが、徐々に理解されていった。
かといって、メーカーのヘルメット非着用が進んだわけではない。僕の非着用だけが、例外的に許されることになっただけだ。ただし、リスクのある初期段階の試作車に乗る(かつてはそういう状況がけっこうあった)ような場合は、僕も当然ヘルメットを被った。
、、そんなことで、しばらくは、僕がヘルメットなし、助手席に座るメーカーのスタッフはヘルメット着用という妙な形になったが、時間の経過と共に変わっていった。
僕は、「限界領域のチェックに絶対手抜きはしない。でも、危険は犯さない」という自分なりのルールを厳格に守ることを自分に言い聞かせて走ってきた。テスト車のトラブルで危険な状況に遭ったことは何度かあるが、上手く切り抜けられた。
新型車の開発に携わり、少しでも役に立つことは、僕の重要な仕事のひとつであり続けてきたし、真摯に取り組んできたことでもある。そんな中で、「ヘルメット着用はイエスかノーか!?」は重要なテーマだった。そのテーマに対するシンプルで絶対的な答えを示してくれたメルセデスには、今でも感謝している。
(文:岡崎宏司/自動車ジャーナリスト)
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