日本のポエム化は中田英寿から始まった! ポエム化を助長するのは安倍さんとEXILE

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ごまかすために意図的にぼかした文章はポエム

──(笑)詩とポエムはどこが違うのですか。

私がおおざっぱに分けているのは、鑑賞される作品として作られて、作品として読まれているものは、出来不出来はともかく、詩です。一方、本当は詩ではないものを書くはずだったのに、舌ったらずで、文章の技巧がなくて、結果的に生まれてしまったものは、ポエムだと思います。

それと、何かをごまかすために意図的にぼかした文章もポエムです。たとえば、女の子のグラビアの横についている惹句。あれは黙って見ているのも妙だから、とりあえず何か文を入れておこう、みたいなことですよね。横にまじめで硬い文が載っていると、興奮が冷めてしまう。水着グラビアをウハウハ見ている読者が、そんな自分を直視しなくて済むような現実離れした文が必要なのです。

ふわふわした文体で、「はるな、キミの名前を登録したよ。ボクの心の電話帳に……」みたいな、呼びかけるような感じの文がよくある。

BGMみたいなものです。夫婦でひとつの部屋にいるときに、沈黙しているのも嫌だからテレビをつけておく。そのテレビが面白くなくても、感動的でなくてもかまわない。何か音や映像が流れているほうが、場の緊張が解ける。そういう役割がテレビにはあります。

グラビアの惹句もそうで、現実に直面しないため、ごまかすためのものなのです。鑑賞するためではない、ただ流しておくためだけの日本語ってあるんですよ。

ただ、J-POPやグラビアの言葉があいまいだったり、焦点を結ばなかったりしても、別に問題はない。私が問題視しているのは、政治家や役人の言葉、官公庁のプレスリリースなど、説明すべき責任のある文章がポエム化していることなのです。本来、情報を運ばなければいけないのに、気分を運んでいる。つまりポエムですよ。

──意図的に何かをごまかしている?

典型的な例は、オリンピックの招致委員会のキャッチフレーズです。「今、ニッポンにはこの夢の力が必要だ。」というあれ。招致委員会が国民に向けて説明するのだったら、日本の消費がこれだけ冷えて込んでいて、オリンピックを東京に招致することによって、こういう効果が期待できるという情報を伝えなければいけないのに、「夢の力」という、実にあいまいもことした言い方をして、ボディコピー(キャッチコピーに続く長めの文章)も全面ポエムでした。

※以下に引用

今、ニッポンにはこの夢の力が必要だ。
オリンピック・パラリンピックは夢をくれる。
夢は力をくれる。
力は未来をつくる。
私たちには今、この力が必要だ。
ひとつになるために。
強くなるために。
ニッポンの強さを世界に伝えよう。
それが世界の勇気になるはずだから。
さあ、2020年オリンピック・パラリンピックをニッポンで!

 

招致ポスターの中でいきなり円グラフを出せ、というわけではないですよ。キャッチフレーズや広告コピーというのは、だいたいポエムの世界です。本当はプレスリリースの中で説明しないといけないのに、説明がほとんどない。

本来、役人が書く文章は官僚的だといって嫌われるものです。美辞麗句はあまり使わず、決まり文句が多い。しかし、そうでなければいけないから、そうだった部分もあるわけで、官僚が官僚的であることは全面的に悪いことではない。

官僚が官僚的でなくなろうとしたときは、官僚の責任を回避したときや官僚の職分をまっとうしていないときです。だから、官僚がポエムを言い始めたら、何かをごまかそうとしていますよ。私は、役所がカタカナ、英語、やまと言葉を使うときは危険だと思っています。

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