男たちが抱える「弱音を吐けない」という重い病 男性の自殺者が多い背景に「男らしさ」の呪縛

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2016年に実施された厚生労働省による「自殺対策に関する意識調査」の結果からは、男性に特有の意識が見えてきます。

まず、「あなたは、悩みを抱えたときやストレスを感じたときに、誰かに相談したり、助けを求めたりすることにためらいを感じますか」という質問にたいして、「そう思う」(「そう思う」「どちらかというとそう思う」の合計、以下同様)は、女性が41.9%だったのに対して、男性では52.4%と10%以上のひらきがありました。

さらに付け加えておくと、人に助けを求めるのを避ける傾向は、50代以上の男性でより顕著という結果になっています。

転んだり、注射を打ったりした際に、メソメソする男の子が、「男なら泣くんじゃない」と叱られることは現代でも少なくありません。私たちが男性に期待する〈男らしさ〉の最たるものが「強さ」だからでしょう。逆に言えば、涙は「弱さ」を象徴するものとして、幼い頃から禁じられているわけです。

「弱さ」を連想させるような感情を表に出してはいけないと学んだ男の子たちは、当然のことですが、大人になっても周囲に「弱み」を見せられなくなってしまいます。ここで強調しておきたいのは、「男性でも悩みを抱えたり、ストレスを感じたりしたときには弱音を吐いてもいい」ということです。

男性が悩みを相談しない理由としては、他にも、ある種の「合理的」な思考があります。例えば、「嫌な上司がいる」と人に言ったところで、現実としてその上司がいなくなるわけではありません。問題が根本的に解決しない以上、相談は無意味だというわけです。

このような発想になってしまうのは、「人に悩みを聞いてもらうだけで気持ちがすっきりする」という経験が不足しているからでしょうか。

次に、「あなたの不満や悩みやつらい気持ちを受け止め、耳を傾けてくれる人はいると思いますか」という質問に「そう思う」と答えた割合は、女性の89.1%に対して、男性は76.4%とやはり女性よりも低くなっています。

これについては、60代、70代以上の男性で「そう思わない」(「どちらかというとそう思わない」「そう思わない」の合計)人が多くなっています。他にも、金銭的な援助をしてくれる人の有無を尋ねた場合にも、さきほどの2つの質問と同様の傾向が見られます。

「男らしさ」に秘められた苦痛

このように男性は頼れる人が少ない傾向があるわけですが、男性の悩みを誰が受け止めてくれるのかという問題を考えるとき、〈男らしさ〉にとらわれているのは男性自身だけでないことを理解することが大切です。臨床心理士のテレンス・リアルは『男はプライドの生きものだから』(講談社)の中で、次のように述べています。

「男は脆弱であってはならない。苦痛は乗り越えなければならない。それができないことは恥である」。男自身がこう思っているだけでなく、家族も友人も精神保健の専門家ですらそう信じているのである。私はこの秘められた苦痛こそが男性が直面する問題の核になっていると確信する。

自分が悩みを聞く相手だとして、いつも会社や家庭で頼りにされている男性が弱音を吐く場面を想像してみてください。この人はなんで急にこんなに「情けなくなってしまったのだろう」とがっかりしたり、驚いたりしてしまわないでしょうか。

悩みを抱えている人がいざ相談しようとしても、相手からのリアクションがこのようなものであれば、気が引けてしまうのも当然です。

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